君に伝える


とても大切な子がいる。
ずっと一緒にいられると、思っていたけど…あの子は今、俺の思い出の中にしかいない。






宮殿の敷地内の庭は、ルルーシュとユーフェミアの大好きな場所だった。



「ルルーシュ、大好き!」



ガバリ。
ユーフェミアが頬を仄かに染めてルルーシュに抱き付いた。



「嬉しい!ずっと大事にするからねっ」



一瞬の抱擁の後、ユーフェミアはルルーシュからもらった四葉のクローバーを胸に抱き、微笑む。


ルルーシュは、ユーフェミアのその笑顔に胸が暖かくなるのを感じ、“ユフィにあげて、本当に良かった”と思う。

彼女の喜ぶ顔が見たくて、毎日探していたのだ。
やっと見つけられた嬉しさと、彼女の喜ぶ顔が見れた嬉しさが、身体中を駆け巡る。



「ルルーシュ。
私、ルルーシュが大好きよ!
ルルーシュは?」

「え?」

「ルルーシュは私のこと好き?」



可愛らしく首をかしげ、尋ねるユフィ。
ルルーシュは硬直する。



―僕の気持ち、伝わってない…!?


ルルーシュは、とても恥ずかしがり屋な性格だった。
自分の気持ちを頭で考え、理解することはできる。

ただ、それを唇にのせて相手に伝える。ということが、どうしても苦手だ。



だから、ユーフェミアに四葉のクローバーを託した。
この、彼女を大切に想う気持ちが少しでも伝わりますように、と。



「……」

「……」



ルルーシュとユーフェミアの間に、沈黙が流れる。



「ルルーシュ」



ユーフェミアは、苦笑した。



「ごめんなさい、ルルーシュ。」

「ユフィ?」



ルルーシュは、突然謝罪したユーフェミアを怪訝そうに見る。



「ちゃんとルルーシュの気持ちは分かってるの。
自惚れだったら恥ずかしいけど、ルルーシュは私のこと好きでしょう?」

「!!」



ユーフェミアの言葉に、ルルーシュはボッと顔を真っ赤に染めた。



「ルルーシュの口から聴いてみたいって、思ったんだけど。
ルルーシュは恥ずかしがり屋さんだもの、言えるはずないですよね」



からかう様に言葉を紡いだユーフェミアは、四葉のクローバーに目を落とす。



「ありがとう、ルルーシュ。本当に大切にするからね!」



そういって、ユーフェミアはクルリと反転し、宮殿内に戻ろうと足を踏み出す。



「ユフィ!」



ルルーシュは、慌てて彼女の袖を掴んだ。

ルルーシュの頭の中が騒がしい。


“好き、と言え”
“ユフィが望んでいるのは、その言葉だ”



「…ユフィ、ぼく、は…っ」

「…ルルーシュ」



ルルーシュは耳や首まで真っ赤にして、口をパクパク開いては閉じ、を繰り返した。



ユーフェミアはくすりと、くすぐったそうな笑みを浮かべる。



「ルルーシュ」

「……っ」



額に、柔らかな感触を感じる。
視界が全て、彼女の鮮やかな髪の色で埋まった。



「………ユフィ」

「言葉が全てじゃないのね、ルルーシュ。
言葉がなくても、ルルーシュの気持ち、すごくよく分かったわ」



にっこり微笑むユフィも、ルルーシュほどではないが顔を赤くしている。


スルリと、ルルーシュの手がユーフェミアの服から落ちた。
ユーフェミアが「またね」と言って、その場から去る。



遠くなった彼女の背中に、ルルーシュはぽつりと溢した。





「…いつかは…言葉で、伝えるから…」





(好き…だよ、ユフィ)









彼女に言葉で伝えたのは、あれからずっと後。
思い出の中の君に、そっと告げた。








―俺の言葉は君には届かない。
君に伝えた気持ちは、成就出来ずに宙をただ漂う。






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