あの頃


シャーッ!という威嚇音と重なってガリッという鈍い音がした。



「……い…ってぇ!」



枢木スザク(9)は、手のひらに感じた鋭い痛みに耐えきれず大きな声を上げる。



「スザクさんっ、どうしたんですか!?」



少し離れた場所にいたナナリーは慌てて声のした方へと顔を向けた。



「…って〜、何だよあのネコ!せっかく遊んでやろうと思ったのに!」

「……ネコ、ですか?」

「そう!俺の手、噛んで行きやがったっ。」



スザクはふんっと頬を膨らませ、チクチク痛む手を無造作に振り回す。



「痛みますか?大丈夫ですか?」



心配そうに首を傾るナナリー。



「大丈夫、大丈夫!
俺、昔からネコとは相性悪くてしょっちゅう噛まれてたから、慣れっこなんだ!」



スザクはナナリーを安心させるために、明るい声でナナリーの頭を撫でた。
ナナリーは心配気に眉を寄せるが、スザクを信じて少し頷く。



「…ユフィお姉様がいたら良かったのに」

「へ?」



スザクは聞きなれない単語に口を曲げる。



「『ユフィお姉様』。すごいんですよ?どんなネコとも仲良しになれるんですっ。」

「どんなネコとも?」

「はいっ。ユフィお姉様が『にゃぁ』と鳴けば、ネコは大人しくユフィお姉様になつくんです」



スザクはパチクリと目を見開く。
そしてネコに噛まれ、痛む手を見つめた。



「ユフィお姉様には、仲良しにならないネコはいらっしゃらないんです」



“会いたいなぁ”という願いは胸に留めてナナリーは笑う。



「ふ、ふん!ばっかじゃないのか?
どんなネコとも仲良しになるなんて有り得ないねっ。」



スザクは腕を組んで、鼻を鳴らす。

自分はネコ一匹さえ手懐けられないのに、なんだその『ユフィお姉様』ってのは。
面白くない!



「きっと相当なアホなんだよ!」


バッシーン!!


「いっ!?」



突如、大きな音を立てて後頭部に痛みが走った。



「ユフィを馬鹿にするな!この馬鹿がっ」

「ルルーシュ!」


「え?お兄様っ?」



ナナリーはスザクに何が起こったのか分からなかったが、恐らくルルーシュに叩かれたのだろうと推測した。



「お兄様、手は痛くありませんか?」

「大丈夫だよ、ナナリー」



ルルーシュはナナリーの横に並んで微笑む。



「おい、ルルーシュ!いきなり何するんだよっ!」



後頭部を押さえながら、スザクが噛み付く。



「ユフィを馬鹿にしたからだ!この馬鹿!」

「はっ!?俺は本当のことを…」

「お兄様の言う通りです!ユフィお姉様を馬鹿にするのは許しませんっ」

「えええ!?」



いつもは穏やかに微笑むナナリーも、きっぱりとスザクに告げる。


スザクは完全に二人を敵に回してしまい、その後も「馬鹿馬鹿」と怒られたのだった。





(くそー!なんだ、ユフィお姉様って!!)







―もしもあの頃、君と逢えていたなら、少しは違う運命を辿れたんだろうか。





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