不意に、胸を疼かせた



 


ドアのロックを開ける。

春色の少女と春色の球体がいるはずの室内はしかし静かで。


「…また!」


僕は食事を片手に何度目になるかも解らない溜め息をついた。







星の大海が一望できる艦後方にあるデッキで、観客ゼロの単独ライブを行う少女。


「ラクスさん!」

「あら、キラ様」


ほわほわ僕に笑いかける彼女は数日前に僕が拾った人。


「外に出ては駄目だと言ったでしょう!」

「まあ、でもピンクちゃんが…」

「ピンクちゃんはもういいですから!部屋に戻りましょう、せっかくの食事が冷めてしまいますよ?」


すると、春色の球体―通称ピンクちゃんを抱えた彼女の顔が曇る。


「……ラクスさん?」

「……一人で食べても美味しくありませんわ」


(あ…)

初めて彼女を見たとき、シャボン玉のようだと思った。
ふわふわと空間を漂いながら、愛らしい笑みを浮かべ、響く声はどこまでも優しくて。


「………なら、ここで待ってて。絶対に動かないでください」

「はい?」

「食事、持ってきます。一緒に食べましょう、ここで」

「………っはい!」


愛らしい笑顔が、僕の瞳いっぱいに移る。




(どうして、彼女の哀しそうな顔は見たくないと思うんだろう)




 


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