ラクスの選択



「アスランっ」
「! ラクス」

恋人はいつもと変わらない、優しげな笑顔で手を振ってくれる。
わたくしは同じように手を振って、彼の隣に座った。

「アスラン、あの…」
「ん?」
「昼間のことなんですけれど…」

そう言うと、彼の顔が少し強ばった。
不安そうな翡翠の瞳。きゅっ、と口を一文字に結ぶ。

それがなんだか、可笑しかった。


“僕と結婚して”

脳裏に浮かぶ、耳元で聞こえた声。
よく知ってる、幼馴染みの声。

―――キラの声。

アスランにプロポーズをされて、それを受けるとキラに告げた。

―嬉しかったから。
アスランを知りたい、アスランにわたくしを知ってほしい、とそう思えた。
彼となら向き合っていける、そう思えるから。

そう告げたわたくしに返って来たのは、「馬鹿だ」という言葉だった。
わたくしの思いを全部否定した言葉。

そして、「僕と結婚して」と抱き締められた。


―やめて!

どうして…
どうしてそんな事を言うの?今更になって。

もう惑わされないと、
もう振り回されないと、
もう迷ったりしないと、
あの日に心に決めた。

なのに、貴方はわたくしの決意を乱す。

貴方に惑われて、振り回されて、迷わされて、結局何にもならなかった。
貴方とわたくしの間に、幼馴染みという関係以外、何もなかった。


辛くて悲しくて苦しくて。
だから貴方への思いを全部断ち切ったのに、どうして今更そんな事を言うの。

わたくしの心を乱すの。

どんな思いで、想いを断ち切ったのか、貴方は知らないくせに。


「……ラクス?」
「…わたくし」


アスランは、絶望していたわたくしに優しさをくれた人。

わたくしを惑わさない、振り回さない、迷わせない、真っ直ぐな人。



だから、キラ。


「アスランのプロポーズ、受けます」


わたくしはこの人を選んだのです。



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