短くて小さな恋の噺 | ナノ


とある日(蛮→夏実)


黒く長い髪を後ろで1つに結った小さな後ろ姿。
蛮はその後ろ姿に見覚えがあり、小走りで近付く。


「よぉ、夏実ちゃん」

「あっ、蛮さん!」


よく耳に馴染んだ声がした夏実は、にこやかに声がした方を向く。
そこにはやはりゲットバッカーズの一人…美堂蛮がいて、夏実はますます笑みを深めた。

その笑顔を見た蛮は少し照れて、夏実の顔から目を反らし、彼女の手元に移した。


「お、買い出しか?」

「はいっ」

「ふーん。貸しな、店まで一緒に行こーぜ」


そういうと、蛮は夏実の手から買い物袋を取り上げ、歩き出した。

蛮に荷物を持たせるのは悪いと、荷物を取り戻そうと手を伸ばす夏実だが、その手を蛮が避けていってしまう。
そんな夏実に、蛮は「いーから!」と自分が持つと念を押す。
夏実は諦めて笑った。


「ごめんなさい、蛮さん。ありがとうございます!」

「礼なら、ツケをなくすとかしてくれねーか?」

「それはダメですよ」

「やっぱり」


ちぇっと舌打ちをすると、夏実がクスクス笑い出す。
蛮も、それにつられてくすりと夏実と一緒になって笑った。


そうしていると、いつの間にかすぐ目の前にホンキートンクの看板が見えた。

二人は勢いよく扉を開き、ただいま、と波児に声をかける。


「蛮さん、本当にありがとうございました!
ブルマンでも飲んでゆっくりしていってくださいね!」

「あ、…おお」


夏実は蛮に持ってもらっていた荷物を受け取ると駆け足でカウンターの中へと入っていく。

ついさきほどまで隣にあった笑顔がなくなり、なんとなく淋しさを感じた。


「……気のせい、か?」


左右に首をかしげ、蛮はカウンター席に腰をおろした。



そんな蛮の様子を、新聞を見ながら観察していた波児はくすり、と笑みを漏らしたのだった。







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