短くて小さな恋の噺 | ナノ


帰る場所(銀夏蛮)


カランカラン、と鈴がなった。
ずっと寝てなくて、今にも目を閉じてしまいそうだったけど。
鈴の音を聞いた瞬間、意識がはっきり醒める。

入口を見ると、たくさんの包帯を巻いてはいるけれど、いつもと変わらない笑顔の二人がいた。



――信じてた。




「おかえりなさい!!」

「ただいまっ!!」


蛮さんは、相変わらずの勝ち気な笑顔。
銀ちゃんは少し照れたような笑顔。
二人はいつもの席に座って笑っている。
オーナーは新聞をたたんで、二人に尋ねた。


「オーダーは?」

「ブルマン!ツケで!」

「お前ら…いつになったら借金返すんだよ!?」


いつもと同じ、変わらないやりとり。オーナーがいて、レナちゃんがいて。
蛮さんがいて、そして銀ちゃんがいる。



―信じてたよ。
銀ちゃんと蛮さんは必ず無事で、帰って来てくれるって。
蝉丸さんとお話しをして、二人が大変なことになってしまってるって教えてもらったけど、それでも、二人を信じてたから笑えた。
信じてたから、何も恐くなかった。




「―…え、夏実ちゃん……どうしたのっ?」

「夏実?」

「ふえ?」


不思議そうな顔で、二人が私を見る。
レナちゃんとオーナーも驚いていた。

銀ちゃんは心配そうに眉を下げる。


「泣いてるよ…?」


頬に触れると、濡れていた。
いつの間にか、私の目から涙が流れていたみたい。
自分で全然気付いてなかったから、銀ちゃんに指摘されて驚いた。


「えっ、あ、あれっ?なんで?」


どうしよう。拭いても拭いても、涙が止まらないや。
やだな、なんでだろう。


「夏実ちゃん!」


銀ちゃんがカウンターを飛び越えて、私の隣に立つ。


「銀ちゃ…?」


銀ちゃんは私を抱き締めてくれた。


「ごめんね、夏実ちゃん。心配かけちゃったね」

「え…」

「ずっと待っててくれて、ありがと」

「…銀ちゃん…」


暖かい笑顔がしみて、また涙が溢れる。
今度は分かる、私、泣いてる。この涙は、安心して出た涙だ。


「…銀ちゃん、私ね、嬉しいんだよ。
二人のこと、信じてた。絶対帰って来てくれるって、信じてたんだよ。
でもやっぱり心配だったの。だから、こうやって帰って来てくれて、本当に嬉しい…っ!」


銀ちゃんは、さらに笑みを深めて私を見た。
カウンターに座っていた蛮さんも私の側に来て、照れ臭そうに、笑みをくれる。


「うん、ありがと、夏実ちゃん!」

「ただいま、夏実」


蛮さんが、不器用な手付きで私の頭を撫でてくれた。
その不器用で、でも優しい手付きにますます涙が溢れる。


「銀ちゃん、蛮さん〜…っ」


私は、思わず蛮さんにしがみ付いた。


「え、ちょ!?夏実ちゃん!?そこはそのまま俺をぎゅってしてくれないの!?」

「ブアハハハ!夏実は俺が良いんだよ!ケケケッ」

「そりゃないよ蛮ちゃん!夏実ちゃ〜ん!」


二人のやりとりに思わず噴き出す。
オーナーもレナちゃんも声を上げて笑う。




ありがとう、帰って来てくれて。
ここが二人の帰る場所で、本当に良かった。





「おかえりなさいっ!」









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