短くて小さな恋の噺 | ナノ


夢(銀夏)


今日もHONKY TONKに元気な少年少女の声が響く。








「ねねねぇ!夏実ちゃんの夢って何!?」

「私の夢?」


カチャカチャと食器を洗うこの店の看板娘・夏実に、カウンターから身を乗り出して尋ねる奪還率ほぼ100%の奪還屋の片方、銀次。
目をパチクリ瞬かせる夏実を、銀次は楽しそうに―期待を込めて―見ていた。

この店の店主である波児はつまらなそうに煙草をふかしている。


「ん〜、そうだなぁ……あ!そうだっ☆」

「何なに!?」


瞳を輝かせて、何かを思い付いた夏実に迫る銀次。


「日本一のコーヒー屋さん!」


波児は灰皿にタバコの灰を落とし、くわえ直す。


「……………えっ?」

「あとねぇ、胸も大きくなりたいし…だってさ、卑弥呼さんよりもレナちゃんよりも私ちっちゃいんだよ?一応私のが年上なのに…ズルいよね!…あっ、あとラッキーとお喋り出来るようになりたいな!あとあと、学校のテストで100点もとりたいし、それとねぇ〜…」


一度語り出せばキリがないくらいに夏実の口から「ああなりたい」「こうなりたい」という言葉が並べられていく。


「ちょっ、ちょっとタンマ!!;」

「ふぇ?」


慌てて、銀次は夏実を止める。
その時、横からかすかな笑い声が聞こえた。


店主である波児だ。


「残念だったなー」

「うっ!!」


にやつく波児は、どうやら銀次の心中を察している様だ。
彼が何を期待して、夏実にあの様な質問をしたのかも。


波児の言葉に、あっという間に銀次の顔が真っ赤に染まる。


「どうしたの?銀ちゃん、顔真っ赤!」

「えっ、…あ〜…何でもないよっ!?…俺もどっか遊びに行こっかな!!ははは!」


理由なんて言えるわけがない。
銀次は顔を赤くしたまま、カウンターから逃げるように席を立とうとした。


「―あ、待って銀ちゃん!!」

「えっ?」


銀次が店の入口へと足を向けた瞬間、夏実が呼び止める。

振り向いた銀次に、夏実は両手を胸の前で合わせて微笑んだ。


「私ね、一番叶ってほしい夢があるの」

「?」

「銀ちゃんのお嫁さん!!」





波児の煙草が、それごと口から落ちた。
煙草は波児のズボンに落ちる。


「ぅあっちぃ!!」














「蛮ちゃーーーーん!!!!」


ダダダっという音を立てて蛮に向かって猛ダッシュで走る銀次。

このまま銀次が真っ直ぐ蛮を目指し突進してくれば、激突して二人とも吹き飛ぶか、銀次が軽い身のこなしで蛮に抱き付いてくるかになる。
銀次は後者のつもりで来ている。

抱き付かれてやっても良いのだが、何故か今こちらに向かってくる銀次から異様なオーラを感じて、蛮は、両手を広げて飛び付いてこようとした銀次をフアッと避けた。

ドシャァ!!!!と蛮がいた場所に激突する銀次。
普段なら『蛮ちゃん冷たい!』と抗議してくるが、起き上がった銀次は妙に目をキラキラさせて蛮を見上げている。

こいつ、花が飛んでやがる…。


「あのさ!俺、仕事もっともっと頑張るからね!!」

「んだよ、突然?」

「俺、夏実ちゃんをお嫁さんにするんだもん!いっぱい稼がなきゃだよね!!」

「…………は…?」


蛮の口から煙草がポロッと落ちる。


「苦労させたくないもんな〜!ほらほら!蛮ちゃん!仕事探しに行こ!ふっふふ〜ん♪」




“銀ちゃんのお嫁さん!!”




ずっと、その言葉が聞きたかった。

大好きな子と、家族を作るのが夢だから。
俺、君の事、これからもずっと大切にするからね!


だから、二人で夢を絶対叶えよう!!








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