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夏目友人帳

「うぅ、寒っ。」

朝、目が覚め布団から起き上がると部屋は冷えきっていた。
着替えを済まし、布団を片付け、藤原夫妻の待つ台所へ向かう。

「おはようございます、塔子さん、滋さん。」

「おはよう、貴志くん。今、ご飯盛るわね。」

「おはよう、貴志。今日はやけに早いな。」

台所へ入ってすぐに挨拶をする。
塔子さんは茶碗を片手に杓文字を軽く振った。
滋さんは新聞を読みながらお茶を飲んでいる。

「はい。学校へ行って勉強をする約束をしているんです。」

「どうぞ召し上がれ。ふふふ。」

椅子に座りながら滋さんに説明していると塔子さんが茶碗をコトンと置いた。

「ありがとうございます。」

箸を持ち、手を重ね合わせる。

「いただきます。ズ。味噌汁、美味しいです。」

「ありがと。ふふふ。いっぱいお食べ。」

塔子さんの暖かい笑顔はとても癒される。

「勉強でわからない所があったら聞いてくれて構わないからな。」

「はい。ありがとうございます。」




ガラガラガラガラ

「…ただいまー。」

開けるとき多少音の鳴る玄関の戸を開け、中へ入った。

(そういえば、ニャンコ先生どこ行ったんだろ。)

階段を上がり自室の戸を開けると、座布団の上に白くて饅頭のような形をした猫が寝ていた。

「帰ったぞー先生。」

「…すぴー。パチ。…帰ったか夏目。」

座布団に座り直したニャンコ先生は器用に座り、前足の肉球を上に向け、お手、と言わんばかりに手を出した。

「…何だその手は。」

「何か無いのか?!スルメとかケーキとか羊羹とかは?!」

「何て贅沢な猫なんだ!そんな物はない!」

「なぬー!だから、何度も言っておろうが。私は猫ではないと!…はっ」

「猫ではない。」と啖呵を切った後、何かを思い出したかのように、短い前足で口を塞いだ。

「…ね、猫ではないぞ!だが今は招き猫を依代としていてだな、猫なのだ。」

「…はぁ?」

先生は招き猫を依代に封印されていた。
先生はそのせいで体が形になれた、と言っていた。
つまり見た目などを含めても、最近のニャンコ先生はただの中年猫なのだ。

「言ってることが矛盾してるぞ。…そういえば、今日学校で多軌からクッキーを預かってきたぞ?」

「さすが、あの娘は今日が何の日か分かっておったようじゃな。」

鞄から小包を取り出して先生に渡すと、袋に手を突っ込み、器用に一つずつ食べていた。

「今日、何かあったか?」

「よく日付を見てみろ。」

2月22日…222…
え?まさか…これか?

「わかったけどこれはニャンコ先生、自分で猫だと認めなきゃ…」

「えーい、煩いわ!つべこべ言わず私を敬えー!!」

しかも何か主旨違う!
多岐から貰った特製クッキーを食べ終わった先生は容赦無く飛び付いてきた。

「わ、わかった!やる、やるよ。だから攻撃を止めてくれ!」




「だから、あげるって言ってるだろう?」

「い、いらん!」

今日が猫の日だというのはわかった。
それでニャンコ先生は、今だけ自分を猫として、何か物を欲しがってるのだ。
それなら猫らしさを見せろ、といったらそれを拒んだ。
全く面倒なことだ。
先生が根をあげて言うこと聞けば、俺が負けを認めてやらんでもないのに。
そうしたら七辻屋の饅頭をあげるのに…。
強情にも程がある。

「…簡単なことじゃないか。ただ一言、ニャンニャンと言えばいいのだから。」

「そんなこと言えるかぁ!ましてや面と向かって。」

そう、ただニャンニャンと言えばいいだけなのに。
普段猫のように生活しているのだから問題ないだろうに…

「…ん?どこ行くんだ、先生。」

トコトコと窓の方へ向かう先生を呼び止めた。

「ふん。こんなことやってられるか!…酒呑みに行ってくるんだ!」

「なっ!またか?!」

鍵の開いている窓を器用に開け、屋根から外へ出て行った。

「全く……」

「ニャーン。」

「あ。」

先生の声だ。

(なんだ、やればできるじゃないか。)

「饅頭は、先生が帰ってきてから一緒に食べよう…」

開け放された窓を閉め、机の上に七辻屋の袋を置いた。
先生が戻ったら一緒に食べるために。


「貴志くーん、ごはんよー。」

「…はーい、すぐ行きます。」




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