ばらかもん
(よしっ!)
ヒロシは朝から早起きをして、あるものを作っていた。
それが完成したらしい。
それは完璧に仕上がっていた。
「…母ちゃん、これ夕方まで冷蔵庫から出すんじゃねぇぞ。」
仕上げたモノを冷蔵庫にゆっくりとしまって学校へ行く支度をした。
3時…。
もう少ししたらなるたち、小学生が放課になる時間。
(きっと、先生ん家に行くんだろな。)
***
「せんせー!」
「先生ー。」
先生の元へ訪れたなるとひなは力一杯その名を叫んだ。
「先生、留守かね?」
「 ? 」
ひなはなるの問い掛けに首を傾げる。
「…入って待ってればよかね。お邪魔しまーす。」
ガラガラガラ
扉には鍵が掛かっておらず、すんなり開いた。
「せんせー?あーそぼ。」
「遊ぼー。」
なるとひなは家の中を歩き回り先生を探した。
「…居ない。」
***
その頃、当人の先生はと言うと唯一村にあるお店、木下商店に来ていた。
「よかった、あった墨汁。…店長さん、これ下さい。」
ぼくてきと書かれた墨汁のボトルを手にカウンターへ持って行った。
「はいよ。いつもありがとね。」
「いえ。」
(ここしか店無いし…)
墨汁を手に入れた先生は家へと帰るのでした。
***
「…ただいまー。」
「おかえりー、せんせー!」
「おかえり。」
家の扉を開けた先生を出迎えてくれたのはなるとひなだった。
元気な声に驚いたのか、なるたちがいるのに驚いたのか、先生は悲鳴を上げた。
「うわぁーっ!な、何してんだ?!」
「先生留守だったけん、家ば入って待っとった!」
ニコォーッと笑ったなるに引き換え、先生は口角をヒクヒクさせて苦笑い。
手に入れた墨汁で早速仕事を始めようかとちゃぶ台に向かうが、なるに邪魔される。
「えーい、あっちへ行ってろ!仕事の邪魔だ!!」
「遊んでよー、せんせー暇やろ?」
「どこをどう見たらそういえるんだ?」
ちゃぶ台に置かれた紙と硯、先生の手に持たれた筆。
どう見ても暇とは言えない。
「後でやればよかよ!なるたちとは今しか遊べんよ!」
「もう少ししたら美和たちが来るだろう。美和とタマに遊んでもらえ!今俺は忙しいんだ。」
「ブーブー。」
「ブーブー。」
ひなもなるの真似をして先生にブーイングを送る。
「先生ー遊びに来ちやったぞー。茶ー出してー。」
「お邪魔しまーす。」
物の数分で美和とタマが訪れた。
「あーほら来た。さっお前たち、美和に遊んでもらえ。」
「ん?なるたちも来てたんか。」
なるは先生から離れ美和に抱き着いた。
「美和ネェ!先生が遊んでくれん!」
「しょうがないよ、先生も忙しい時くらいあるんだし。」
「タマ…」
タマが珍しく先生の味方をした。
その分裏がありそうで恐くなる。
「それよか先生?」
「…なんだ?その怪しい顔は。」
美和はニヤニヤと先生に詰め寄る。
「酷かねー。怪しくなんかなかよ。ねぇ、タマ。」
「うん。」
(タマ、お前もか!)
「今日、何の日か知っちょる?」
「は?今日?」
先生は首を傾げ頭を捻った。
分かっていない様子を見たタマは答えを言った。
「バレンタインだよ。バレンタイン。」
一文字ずつ句切りながら強調して言った。
「バレンタイン?あぁ、チョコ渡すあれか?…それがどうしたんだ。」
「もう!にぶかねー先生は。」
(まさか俺にくれるのか?)
「チョコ頂戴。」
そんな先生の期待を裏切り、美和とタマが満面の笑みで手を差し出す。
それを見た、なるたちも手を突き出した。
「は?俺にくれるんじゃないのか?!ってかなるたちまで手を出すな!」
(…少し期待しちまったじゃねぇか。)
「用意してるわけなかろー。」
「貰う準備しかしてないよ。」
先生はたじろぎ、玄関へ逃げた。
「あっ!待て!」
美和に続いてタマなるひなが先生を追い掛けた。
先生が玄関に着く数秒前に扉が開かれた。
先生は驚き足を止めると、後ろからの衝撃で倒れ込んだ。
「痛っててて…お前ら。」
先生を下敷きにして、美和タマなるひなの順に積み上がった。
「…何やってんだ?お前ら…」
玄関を開け入って来たのは郷長ん家のヒロシだった。
「なんだ、ヒロか!丁度良い、助けてくれ!」
「……はぁ。お前らどいてやれ。」
「ヒロ兄は先生の味方をするんやね!」
「「「ブーブー。」」」
美和に続いてタマたち三人がブーイングを送った。
「…そこどいてやったら、お前たちにもケーキ分けてやる。」
「わーい!ヒロ兄のケーキー。」
先生に積み上げられていた四人はいっせいにどき、居間へ走って行った。
「…ヒロ、ケーキも作れるのか。たいしたもんだな。」
「まぁな。」
ヒロシは誇らしげに胸を張った。
「切ってやるから皆で食べよう。先生、包丁貸して。」
***
「美味かったなー、ヒロ兄のケーキ。」
「うん!」
満足そうにしている四人を見てホッとする先生。
「ご馳走さま。それより何で、ケーキなんだ?」
「…何でって、今日はバレンタインだろ?」
(あぁ、そういえば…)
「どうせ、先生用意してないだろうと思ったから。」
「…あぁまぁ、忘れてはいたが、何故俺が用意してなきゃいけないのを前提に話してんだ?」
「なるは知らなかったみてぇだが、美和たちが来れば話しに乗って、チョコ欲しがるだろ?」
(あれ?俺の話しはスルー?!)
先生とヒロシが話しをしている横では、タマが険しい顔をしていた。
「チッ。神は何故私を試す!」
「……。」
タマの横では美和が呆れ顔。
「だから、皆で食べれるように俺が用意したんだ。」
「あぁ、うん。ありがとう…。」
(…それでチョコレートケーキなのか。)
「あっそういえば、はいちゃんぽん。」
「うわっ、めっちゃ伸びてんじゃん!しかも出す順番逆!」
「「アハハハハ」」
「あーもう。煩いぞ!なる!ひな!」
なるとひなの笑い声と先生の叫び声は家の外まで響き渡っていました。
先生の家は今日も賑やかです。
***
「ちなみに先生今までに何個チョコ貰った?」
「ん?一個かな。」
「彼女から?!」
タマが妙に食いついた。
「いや、母親からだよ。」
「「………。」」
小学校のころもその後も虫歯になるといけないからとチョコは受け取るなといわれていた。
大学に入ってからは俺宛てのチョコ全て川藤に没収されていた。
「「…可哀相。」」
「…哀れみの目で見るな。」
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