男の子 | ナノ
微熱に酔う(これはきっとまぼろし)

いつもはもう少し寝かせてくれるのに。

「早く起きなって!」

うぅー。
大きな声出さないでよ。
実の声大きいから頭痛くなる。

「あと…少しだけ。」

「だーめ!朝ご飯食べなきゃだろ?おばさん、朝食作って仕事行ったよ。」

あぁ、もう、だから!
実の声は大きいんだって。
…実を布団の中に引きずり込んでしまいたい。

「…わかったよ。着替えるから部屋出てて。」

「わかった。早く下りて来なよぉー。」

朝は特に苦手なのに実は容赦なく起こしに来る。
もう本当、部屋にあげないでほしい。

「…はぁ。」

着替えが済んだ僕はため息をついた。
何に対してなのだろうね。


朝食を食べ終えた僕は実と登校していた。
幼なじみである僕と実は仲がよさ気に見えるらしい。
近所のおばちゃん達が挨拶をしながら"相変わらず仲がいいねぇ。"なんて言ってきたりする。
高校生にもなって一緒に登校するのはさすがに恥ずかしい。
実は気にしていないようだけど。
小学校のころは手を繋いで登校してたっけなぁ。
嗚呼懐かしい思い出…。

「――る!透!」

名前を呼ばれて我にかえると実が僕の腕を掴んでいた。

「!何?!」

「何じゃないよ。危ないなぁ。赤信号!」

指差された方向を見ると信号は赤だった。
あ、危なかったあ。

「ありがとう。」

"どう致しまして。"と言って実は前を向いた。


学校へ到着した。
徒歩で学校に着くこの距離。
本当に有り難い。
歩くのは疲れるから。

「だらし無いなぁ。それでも男の子か!」

男だよ。
ちゃんとついてるし。
それにそれ、聞き飽きた。
何年も言われ続けてる僕も僕か。
だって運動は苦手。
体力無いし、技術無いし。
僕は敢えて返事をしない。

「……。」

だけど、それも無理な話し。
実は意地でも僕から返事を聞こうとする。
頭を叩いたり、蹴り飛ばしたり、耳を引っ張って近くで叫んだり。
とにかく僕の嫌がることをする。
そうすれば僕が大人しく返事をすると思っているらしい。
まぁ、毎回負けて返事をする僕も僕だ。
情けないとは思うけど、それが日常となると慣れてしまう。
二人の間にある日常なのだ。
朝起きて学校に登校して、たまに一緒に下校する。
そんな毎日が幼い頃からの日常なのだ。

「なぁ返事くらいしろよ。つまんないじゃんか。」

実は僕の周りをうろちょろと器用に動き回る。
校門を抜け、玄関に向かいながら歩いていた僕たちは他生徒からの注目の的。

「…はいはい、そうですね。」

適当にあしらい、玄関で靴を履き変え廊下を進んだ。

「あー!もうそうやってはぐらかす!」

無言で階段を上っているとスクバを引かれた。

「うわっ!」

思わず驚いてしまう。

「どうしたんだ、透。具合でも悪いのか?」

止められた足を実の方に向き直し、実を見下ろしながら今度はちゃんと答えた。

「大丈夫だよ。具合悪くなったら言うから、心配しないで?ね、実。」

心配そうな顔をして見上げられてかなりヤバかった。
階段の上にいて良かった!

「だけど、…?」

僕は実の頭に手を置いた。

「…だけどクラス、違うし。ずっと一緒にいてあげられないから…心配。」

…ヤバい、可愛い。
何でこんなに可愛いの?

「大丈夫。これでも友達いるから。な?」

抱きしめたくなる衝動を抑えながら頭をくしゃくしゃ撫でた。


数日後。
僕たちはいつも通り一緒に登校していた。
筈だった。
本当、どうしてこうなった?
今朝はいつもより1時間くらい早くに起こしに来た。
とても、イライラしていた。
昨日の夜から少し体調が優れなかった。
原因はさておき、怠い状態に実のあの馬鹿でかい声のせいで尚更、具合が悪化していた。

「今日は用事があるんだ。だから透も早くに学校行こう!」

「…嫌だ。」

用があるからと僕を起こしに来た実はテンションマックスでとても鬱陶しかった。

「何で!今起きないと起こしてくれる人いなくなって遅刻するよ?!」

「いいよ、別に。」

布団に潜り込んだ僕を見て実は布団を剥がそうとしていた。

「止めろよ!朝から鬱陶しい!用があるなら一人で先に行けばいいだろう!」

布団から起き上がり当たり前のようにベッドの上に座っている実を見て、突き放した。

「…わかった。もう起こしに来ない。じゃあね。」

実はベッドから退き、走って部屋を出て行った。

「…やっちまった。」



そういえば今日はこんな朝だったか。
結局あれから一睡も出来ず、実の少し後に家を出た。
ああ1限から体育だ。
本当に今日はついてない。


「今日は体育館でバスケだって。」

「…あぁ、そう。最悪。」

「いや、なんで。」

体操着に着替えた僕とその友人1、2は移動中だった。
体育館までの道のりを話しながら歩いていると突然、目眩がした。
ふらふら歩いているに気付いたのか、友人1、2は振り返り駆け寄った。

「おいどうした、透。」

友人1が僕の体を支えてくれた。

「何だ、風邪か?相変わらず弱いな。ははは。」

友人2は笑いながらも手を貸してくれる。

「無理なようなら保健室に行ってるか?」

「そうしろよ。」

二人は僕の様子を見て保健室に行くことを進めた。

「うん、行ってくる。先生に宜しく。」

二人から離れ、壁を使い保健室に向かった。

「あいつ大丈夫なのか?あんなんで。」

「さぁ。大丈夫っしょ。」


友人二人に見送られて僕はようやく保健室にたどり着いた。
いつもは1、2分で着くのだけど、今日は5分も掛かってしまった。

「せんせー、ちょっと休ませて。…いない。」

僕は一刻も早くベッドに横になりたかった。
だけど一応、先生が来ても平気なように紙に書いておいた。

ベッドに横になり布団に入るとすぐに睡魔に見舞われた。
そしてそのまま眠りについた。

近くで話し声が聞こえて目が覚めた。
どちらも女の声で、一人は実の声、……?

「みの、り?」

「あっ!起きた!」

煩い声。
しかも近い。
幻ではないようだ。

「具合はどう?寝る前は、8度3ぶだったみたいだけど、測ってみて。」

「…はい。」

熱を測ると、

「7度5ぶです。」

さっきより下がっていた。

「今日は帰った方がいいね。担任に言って来てあげるから、少し横になってなさい。」

「はい、ありがとうございます。」

布団に潜り直すと実が心配そうに見下ろした。
その顔は今にも泣きそうだった。

「…実、今朝はごめん。言い過ぎた。」

寝たままで、悪いが謝罪した。

「ううん、こっちこそごめん。無理押し付けようとして…。…具合、どう?」

「うん、大分楽になったよ。」

少し沈黙が生じた。
実は小さな声で、“ごめん”と言った。

「具合悪いの、気付いてあげられなくてごめん。ホントごめっ!?…と、おる?」

目を潤ませながら謝る実を見て、思わず抱きしめていた。

「謝らないで、実。」

同じくらいの体格の実を抱きしめ頭をポンポンと撫でた。

「泣かないで、実。大丈夫だから。ね?」

泣かないでほしかったのに泣かれてしまった。
慰めるように背中を撫でてやると泣き止んだ。
本当、子供だなぁ。

「…ねぇ実。」

「な、に?」

この際だから言ってしまおう。

「好きだ。ずっと、実のことが好きだ。付き合ってください。」

実は抱きしめていた腕を振り払い、後ろに引いて驚いた。

「え!?えぇえ?」

顔を赤くして、まるで熱があるみたいだ。

「こっちに来て。返事を聞かせて、実。」

「いや、ちょ、まだ心の準備が。」

後退しても手の届く距離。
実の手を引き、こちらに引き寄せた。
力を入れているのか引けない。
やっぱり、運動不足かも、僕。

「僕のこと嫌い?」

“ううん。”と首を振る実はとても可愛い。

「じゃあ、好き?」

質問を変えると、顔を更に赤くして停止していた。

「可愛いなぁ、もう。」

力を抜いていたのか今度は簡単に引けた。
そのまま抱きしめた。
ベッドに座って、立っている実を抱きしめると僕の顔は実の胸にちょうど収まる。

「透?!」

僕は優しく抱きしめていたよ。
だけど実は容赦がないね。
驚いたのか恥ずかしいのか力強く抱きしめて来る。
苦しくて窒息死寸前。

「好きだよ、私も。」

恥ずかしそうに言っているのが容易に想像できた。
僕は嬉しくて強く抱きしめ返した。
嬉しさの半面、これは幻なのではと疑う。
でも幻ではない。
ていうか胸ヤバい。
実の鼓動早いし、意外と胸大きいし、熱のせいか理性おかしくなりそう。
力が抜けて背中をなぞるように手が落ちると実はビクッと跳ね、後退した。

「ダメだよ!…って、透?!」

ドサッ。
僕は気を失った。
色々といいところだったのに…。


目が覚めるとそこは見慣れた天井のある部屋だった。
辺りは明るく、時間帯は昼だろう。
近くにある携帯を手に日時を調べた。
保健室で気を失った日から1日経っていた。
時刻は10時37分。
学校は始まっている時間帯だ。
今家にいるということは今日は欠席なのだろう。
ぐぅー。

「腹減った。」

一日中寝ていたお陰か体が軽くなった気がした。
昨日夕飯を食べた記憶も朝食を食べた記憶も無いから、とても空腹だった。

リビングに食料を探しに行き、テーブルの上にお粥があるのに気がついた。
書き置きには“温めて食べなさい。”と、母の字で書かれていた。
コンロにかけ温めたお粥を完食した。

部屋に戻りもう少し寝ることにした。
起きた頃には夕方なのだろうな。

カーカー
外で烏の鳴く声が聞こえ目が覚めた。
壁を向いていた体を逆方向に捻るとベッドに手を掛け寝ている人がいた。
驚いて、“うわぁ。”と言ってしまった。
その人はムクリと起き上がった。

「…おはよ、透。具合はどう?」

寝ていたのは実だった。

「ビックリしたよ。何でここに?具合はいい感じ。」

「何って、心配で見に来た。大丈夫そうで良かった。」

ああ、可愛い。
いつもより倍可愛い。

「実、こっち来て。」

僕は起き上がりベッドの上で座り実を誘った。

「えっ!い、いいよ、ここで。」

「ダメ、こっち来て。」

「うわっ!」

無理矢理実の手を引っ張り上げた。
隣に座らせ前から抱きしめた。

「実。」

少し離して顔を近づけると実は顔を赤くして目を閉じた。
あぁ、キスすると風邪移るかな。

「ただいまー。具合どう?透。」

もう少しでキスできたのに。

「平気だよ。お粥ありがとう。」

「あら、実ちゃん。看病ありがとね。」

「い、いえ。」

“実ちゃんに風邪移すんじゃないよ!”なんて決め台詞を残して母さんは消えた。

「…キス、出来ないね。」

笑顔でいいやがる。

「嬉しそうだな、実。」

「そんなことないよ!」

「…実、今日一日僕の抱き枕ね。さ、寝よ?」

「えぇえ?!」

許可なんていらない。
容赦無く布団に連れ込んで眠りについた。
昨日もそうだけど、熱って凄い。
何でも出来ちゃう。
おやすみ、愛しい実。


お題提供、HENCE様




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