女の子 | ナノ
蝉の声

「お邪魔しまーす」

元気よく玄関のドアを開ける。
すると直ぐに広海が出迎えてくれた。

「…いらっしゃい。上がって。」

あら?
ちょっと不機嫌かしら。

「…お邪魔しまーす。」

今度は静かに言う。

「…ね、ねぇ、広海?」

「ん?…何?」

わぁーやっぱり何か怒ってるっぽい。

「あの、さ、何か怒ってる?」

「…別に。暑いからイライラするだけ。」

「…そ、そう。」

何か嘘っぽいけど、聞き入れることにした。

2階に上がり、広海の部屋の前で止まる。

「先入って、適当に座っといて。お茶持って来るから。」

そう言い、再び階段を下りて行った。

適当に座っとけ、といわれたのでテーブルの前に座る。
初めて広海ん家に来たわけじゃないけど、馴れ馴れしい訪問の仕方だっただろうか。
悩んでいると広海がお茶を持って現れた。

「お待たせ。はい、どうぞ。」

テーブルの私の目の前に、お茶の入ったグラスを置いて、広海は私の向かい側に座った。

「…ありがとう。」

「………」

急に無言になる。
汗がじわりと湧き出るような感じの暑さだ。
扇風機が回っていても暑い。

「…え、えっと、課題!課題持って来たの!わからない所あって、教えてくれる?」

無言に堪えられず、私は手を合わせ、頼み込んだ。
広海は飲んでいた、お茶のグラスを置いて言った。

「いいよ。何処?」

「ありがとう!」

私は課題を広げ、わからない所を教えてもらった。
広海の教え方は上手だったけど私の頭がバカ過ぎて、広海もお手上げの様子だった。

何とか理解し課題を終える。

「…あ、ありがとう、本当に。」

「どういたしまして。」

また無言。
広海が黙ると無言が生じる。
何か、話題は無いのか!
あっ

「ねぇ、さっき機嫌悪かったのってホントに暑さの所為?」

さっきまで忘れていたことを思い出し、つい口に出してしまった。

「………」

あちゃー。
やってしまった。

「…だけ。」

ん?
広海の言った言葉が聞こえない。
そりゃまあ扇風機も回ってるし、外では蝉が大合唱してるし、近所の公園で遊ぶ子供達の声も聞こえるから、広海の言葉が聞こえなくても不思議じゃない。

「…ごめん、もう一回言って?」

私は広海が何と言ったのか知りたくて聞き返した。

「…だから、…。」

広海は、グラスを見ていた視線を私に向け、顔を赤くした。

「……!?」

「俺だけ、緊張して…。
めっちゃ色々準備して待ってたのに、美波はヘラヘラしてるし。だから別に機嫌が悪いとか怒ってるとかじゃない…んだ。」

「そ…そうだったのか。」

私はテーブルの上に伏せた。
広海が怒ってるんじゃないと安心し、表情が緩む。

「…!!」

広海を見ると顔を赤くし、そっぽを向いていた。

「ど、どうしたの?」

顔を赤くしそっぽを向いた広海を心配し、身を乗り出して近づいた。
が、広海は逆に離れていく。

「ちょ、何で逃げるの?」

テーブルを回り、広海の方に近寄るが、やはり逃げられる。

「…だ、って。……わっ!」

近づき離れをしているうちに窓のある壁側に行き着いた。

「さぁ観念しろ!」

逃げられなくなった広海の顔を面白半分で両手で包み込んだ。

「み、なみ?…離、して。」

照れながらもごもごと言う。
何と可愛らしい。
でも本人には言わない。

「じゃあ逃げない?」

広海は無言で頷いた。
私は両手を離してあげた。

「はい。はは、広海おもし…っ!!」

私は言葉の途中で黙る。
ビックリして黙るしかなかった。
急に広海が抱き着いてきたから。

「!…ど、したの?」

「…美波が悪い。」

広海は少し力を込めた。

「ちょ、っと…苦、しい。」

広海は私の首に顔を埋め、唇を当てた。

「…!」

急な行動に驚いた。
くすぐったいような恥ずかしい感じ。

カプッ

「ひゃ!」

広海に噛み付かれてびっくりする。

「美波は分かってない。今日の、今の状況を。」

部屋には二人。
今日は広海ん家の家族を見ていない。
ということは外出中かもしれない。
色々考え考え、ようやく今の状況を把握する。
すると急に恥ずかしくなってきて顔が火照ってきた。

「…や、でも、まだ昼だし。……ね?…広海?」

何かを促すように問い掛ける。

「……先に誘って来たのは美波だよ?」

私の目を見てクスクス楽しそうに笑う、広海は何処か恐い。

「でも、………」

広海は眼鏡を外して、顔を近づけて来る。
あわてふためいているとキスを寸止めされる。

「……」

「何不満そうな顔してるの?」

「っ!」

もうー!
遊ばれたー。

「大丈夫。ちゃんとしてあげるよ?」

唇と唇が重なり合う。
私は目をギュッと瞑る。
すると唇を離す。

「そんなに力入れないで?」

「でも、恥ずか…ん!!」

口を開けてるときに口を閉じられ舌と舌が絡み合う。
広海は止めなかった。
すると、窓に一匹の蝉が止まった。
その瞬間、大声で鳴き出した。
蝉に気づかなかった広海はビックリして口を離した。

「プハー…蝉、ナイスだ。」

「……」

深呼吸してると広海が窓を叩こうと拳を握っていた。
ちょ、!!

「待って、広海!」

後ろから抱き着いて止めた。

「鳴かせてあげようよ。ね?」

「う……はい。」

こうして蝉が鳴き終えるまで見守った。
鳴き終えると直ぐに飛んで行った。

「…ぷっ、あははは。」

「!?」

私が笑い出すと広海はビックリしてこっちを見た。

「家に二人っきりでも、邪魔する者はいたね。」

「…いたね。」

二人顔を見合って笑った。

「ところで続き、していい?」

「!…ダメっ!」


――――――――――
蝉の声が煩かったので書いた作品です。
短くするはずが結構長くなってしまいました。
意味がわからなかったらごめんなさい。




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