殺して壊して血肉となる
【ここから先への侵入は禁ずる】その言葉のとおり、厳重に警備されており、近づく事すら困難である。
「でも!」
この状況を何とかしてこその!
「怪盗、ってか?あぁ?」
「女頭目さんっ。やっほー、元気してたー?」
いきなり背後から声が聞こえ、慌てて振り返ると大人の男2人が、立っていた。全く背後に気配を感じなかったから安心し切っていた矢先にこれだ。しくじった!
「…。」
てか、私『でも!』しか発声してないんだけど、心読み取られたの?読心術でも使えるのだろうか、このお坊ちゃんたちは。…それより予告状も出していないのに、どうして嗅ぎ付けられた?!
「ったく、何だってんだ。警察のイヌはよく鼻が利くんだな。どうして私がここに盗みに来るって知った?」
うちの一味には仲間を売るようなのはいない。言い切ってもいい。それだけ自信がある。だから尚更、この状況に納得がいかない。
「何を言ってんだ、女頭目。俺達はお前に呼ばれてきたんだぞ。」
「そうだよぉー。忘れちゃったの?つれないなぁ。僕はこんなにも君に会いたかったのに。ね?女頭目さん?」
ニヤついた顔して、気色悪い。どうも話が合わんな。私はこいつらを呼び出した覚えなんてない。何者かが私になりすましているとしても、一体何のために…?
「悪いが、呼び出した覚えはないし、私はお前達に会いたくなんてなかったよ。だから今日はこれで失礼する!」
とりあえずこの場から立ち去ろう。袖口に仕込んでおいた煙玉を取り出した。
「そうはさせないよー。…おっと!」
背後に回り込まれ腕を取られた。それを振りほどき、突き放して2人から距離をとるため、後ろへ跳んだ。
「やはりやるな、女頭目。」
「それはどうも!!だが、遊んでいる暇はないんでね!」
幸い、こいつら以外の警察は来てないようだから、これなら脱出できる。
「今、脱出できるって思った?わかり易いねぇ、君。顔に出てるよ?ペロ。」
「なっ?!何すんだテメー!!」
急に横に現れたと思ったら、頬を舐め取られた。ザラりとした舌の感触が残る頬を袖でぬぐい取った。
「やだなー、汚くないよ?」
「おい、遊んでないで捕まえろ。」
「はいはーい。じゃあ覚悟してね。女頭目さん!! 」
男は持っていた拳銃で殴りかかって来た。近距離だったため、躱すことが出来ずに私の頭に直撃した。
「うっ!ちっ、なんてもんで殴りやがる。拳より痛ぇーんだぞ。ったく。…っ?!」
頭から垂れる血を拭いながら、後退すると、脚に激痛が走った。力が入らなくなり壁に身をあずける様に立ち、傷口を押さえた。そこには鎌で斬られたような傷が横一文字に刻まれていた。
「痛かったか?すまない、逃げられては困るからな。久しぶりの獲物だ。」
「そうそう、逃がすわけにはいかないんだよねー。もう僕達お腹が空いて仕方ないんだぁー。」
は?何を言ってるんだ、こいつらは。獲物?お腹が空いてる?動物みたいな言動だな。まぁ、動物は喋らないけどな。ん…?動物?喋る?何かどこかで聞いたような…
「何そんなに考え込んでんの?余裕だねぇ。2対1なのに、勝てる気でいるのかな?」
「?!…おいおい、何だよそれ。」
噂によれば、この国は獣人を飼い慣らしていると聞いた。まさか、警察犬だったとはな。目を疑うようだが現実か。未だに傷が痛む。
「獣の耳に尻尾。そりゃ噂の獣人じゃねぇか。…お前達まさか!!」
「ありゃー?月でてるね。耳と尻尾でちゃった。女頭目さん、もう逃げられないねぇー。」
「あぁ、もういいだろう。さっさと仕留めよう。今日中にどうにかしろとの命令だからな。」
獣人相手に2対1はキツイだろう。人間の何倍もの力があると聞いているし。この脚じゃ逃げきれないか。…私もついにここまでかなぁ…。仲間に会いたい。
「…あれれぇ?どうしたの?逃げるのやめたの?女頭目さん。」
「賢明だ。」
「…誰が、止めるかよ!!」
手に握り締めていた煙玉を床に打ち付けた。途端に煙が周囲に広がり、視界を奪った。
「わぁお凄い煙。これじゃもう追えないや。」
「おい。」
煙なんて役に立つとは思っていない。少しの足止めが出来ればそれでいい。
「はいはい。逃がしたりしないよぉ。」
ちっ、やっぱり追い掛けてくるか!廊下を走りながら近くの部屋へ逃げ込んだ。窓があればそこから逃げられる。…しかし、
「くっ!開かない!…これは…。」
「おや?どうやら逃げ込む部屋を間違えたようだね。」
「あぁ、ここまでだな。」
「…くそっ!」
まだ、盗み足りねぇよ。死ぬのか、ここで。
「へぇ、ようやく逃げるの止めたんだ。助かるよ。もう僕疲れちゃったから。」
「取り敢えず、抵抗されると面倒だから、息の根を止めるぞ。」
ここで終わる。だけどこの人生を悔いたりは絶対にしな────。
「「いただきます。」」
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