女の子 | ナノ
お家デート

いつだって私だけ、私だけが好きみたいじゃないか。なぁ、稔。

「ん、」
「っ、」

重ねた唇から伝わる熱は本物なのに一歩引いた稔からは冷めた体温しか感じられない。私がこの先を求めても受け入れてくれない。先に仕掛けるのはいつだって私。このキスだって稔には拒否された。それを強引に捕まえた為、怒っているのかもしれない。けれどそれは今日に限ったことではないから、信じられない。
最後に小さくリップ音がして唇は離された。

「なぁ、そんなに私とキスするの嫌なのか?」
「…い、嫌じゃ、ない、と、思う。」

はっきりとしない曖昧な返答に苛立ち胸ぐらを掴んで顔を引き寄せた。稔は、またキスされるのかと思ったのかギュッと目を瞑った。

「嫌なの嫌じゃないのどっちなの?今日だって誘ったのそっちじゃん!家だよ?おうちデートだよ?」
「おうち、デート!」

おうちデートだなんて考えてもいなかったのか頬を赤らめた。そんなところも可愛いと思ってしまう自分が情けない。なんでこうなよなよしいの好きになったんだろ。

「わかった、ごめん。強く言い過ぎた。」
「う、うん。」

掴んでいた胸ぐらを離し、前へ乗り出していた体を後ろへ引いた。膝立ちしていた体勢を崩し、あぐらをかいた。上手くいかないこの関係に苛立ち髪の毛をわしゃわしゃと掻き毟った。

「あ、あのね、家に呼んだのは、その、訳があって。」

俯きながらボソボソと消え入りそうな声で話した。辛うじて聞こえてくる内容からすれば、休日がおうちデートになったのには訳があるって話し出した。しかも、チラッと見える稔の頬は真っ赤に染まっていた。

「この前、僕の誕生日にプレゼント、くれたじゃん?…それね、嬉しかったよ。」

嗚呼、ちょうど一ヶ月前が稔の誕生日だったか。その時あげたものの意味はわかってもらえなかったけど、今、この表情をしているってことは意味に気付いてくれたのかな?喜んでもらえたならそれでいいけど意味も分かってもらいたかったな。あげたものは下着なんだよね。

「それで、今週、平日に彩ちゃん誕生日だったでしょ?その日は何もプレゼント用意できなかったけど、今日プレゼント渡したくて。」
「え、」

まじかよ。私誕生日教えてなかったから何も用意してくれてなかったのも責めなかったし怒らなかったし、代わりにキスさせたからそれで満足してたのに、プレゼントくれるのか。嬉しいな。

「受け取ってもらえる?…僕センスないから、お姉ちゃんに選ぶの任せちゃったんだけど。」

ああ、あの綺麗なお姉さんが。ん?姉に選んでもらうものとは?

「あ、ありがとう。中、見てもいい?」
「ど、どうぞ。」

何故か稔が赤面し顔を覆うようにして隠した。これはもしかして稔一人では買えないものなんじゃないのか?袋の大きさ、中身のモノの触感、中身の透けない袋、もう色々あるけどその他諸々のことを考えてもこれは、アレじゃないか?

「…、」

ラッピングのリボンを解き、中をそっと覗くとそれはやっぱりアレであった。嬉しいのもあるがそれを見た途端に恥ずかしくなり少し頬が赤くなるのを感じた。つまり、このプレゼントを選ぶということは意味が分かったんだよな?

「や、やっぱり気に入らなかった?」
「っ!い、いや嬉しいよ!」
「よかった。」

稔はホッとしたように肩を落とした。それにしても、

「稔、私があげた下着の意味、わかったの?私にこれ、くれたって事は分かったってコトだよね?」

袋から取り出し肩紐の部分を持ち胸に当てて見せた。それを見た稔は顔全体を真っ赤にして口をパクパクさせた。

「お姉さんに選んでもらったって言ったって、下着を買ってきて欲しいって言ったのは稔なんだよね? 」

下着を胸に当てたまま稔に詰め寄った。火を吹きそうなほど真っ赤になった顔で目をキョロキョロさせていた。

「…ねぇ、稔。」

耳元まで顔を寄せ息を吹きかけるように囁いた。

「着て見せようか。」
「え、えええええ!いい!いいよ!着なくて!」

少しビクッと肩をあげたがそのあと悲鳴と共に勢いよく立ち上がった。驚いたためかいつもよりしっかり喋ってる。それと、声が大きい。でも、顔はまだ赤い。

「折角貰ったんだし着たいじゃん。」
「家で!自分の家に帰ってから着てみてよ!」
「じゃあそれを写真で送ればいい?稔のえっち。」
「えっ!えっち?!」
「写真見ながら私のこと考えて毎晩、私のことオカズにするんだなぁ?ん?そうだろ?」
「はぁ?!オカズ?何それ、知らないよ!も、もう!彩ちゃんの意地悪!」

な、何今のセリフ。超可愛い、襲いたい。いや、襲うしかないな。ああ言えばこう言う、稔との口論の末にもう稔をどうにかしてしまいたくなった。

「と、取り敢えず袋に下着しまっ、!!」

下着を持っていない方の手で、ずっと立ちっぱなしの稔の手を掴み力強く引き寄せた。キスをするつもりで。だけどそれは稔のもう片方の手によって塞がれてしまった。負けじと塞がれている稔の手を一舐めした。

「っ!な、何してるの彩ちゃん汚いよ!」
「手、洗ってないの?」
「い、いや洗ってあるけどさ!」

稔が塞いでいただけだったためすぐに手は外され、もう一度キスをするために引き寄せた。今度は手で口を塞いでは来ないと思い、キスできると思った。しかし、唇は逸れ稔の顎が肩に乗っかった。少し擽ったくて肩が跳ねた。

「なんで彩ちゃんそんなにキ、キスしたいの?」

稔の声が耳元で聞こえて、吐息が擽ったくてゾクゾクした。

「そんなの決まってんじゃん。稔のことが好きだから、もっと深い関係になりたいからに決まってんじゃん。稔は私のこと好きじゃないのか?」
「…好き、だよ。」

その一言だけで不安が消える。でも、不満は残る。稔はどうして私のこと好きなクセに触れたいって思わないの?

「僕、彩ちゃんが初めての彼女だから、」
「ん?そうだっけ?前、私と付き合う前誰かと付き合ってたって言わなかったか?」
「あれ、嘘だよ。見栄張ってた。」

気にしなくていいのに。私が初カノだったって笑わないし、寧ろ童貞だってバッチコイだし。

「初めての彼女さんだし、キ、キスだって初めてだったし、その先のことなんて全くわからないし、下手、だったりして嫌われたくなかったから。実際にはどーしたらいいか分からなかったから。」

なんだ。ちゃんと男なんじゃん。それにしてもキスって言う時絶対顔赤くなるとか可愛すぎるだろ。知識ないの前にウブすぎて色々教えたくなる。いや、教え込む前にどんな反応するのか見てみるのもいいかも。

「だからね、僕の初めては彩ちゃんなんだよ?彩ちゃんは、い、嫌じゃないの?」
「全然!誰にだって始めてはあるんだし気にすることじゃないよ。寧ろ喜んで稔のこと可愛がってやるさ。だから、」

持っていた下着を置き稔の頭を押さえ付け耳元に唇を寄せ、息が吹きかかるように囁いた。

「今日は泊まってくから。寝かせなからな、覚悟しとけ?」
「あ、彩ちゃん、く、擽ったいよ。離れ、て」

寝かせないからな、の意味分かってないな。てか、聴こえてないのかも。耳が弱いのは知ってたけどここまでビクビクされるともっと攻めたくなるな。

「稔、」
「ひっ!」

チュッと耳にキスを落とすとビクンと跳ね上がった。何度も何度も耳にキスをすると、稔の声がだんだん我慢するように小さくなっていった。

「声、我慢しなくていいんだよ?チュッ。ほら、稔の可愛い声をもっと聴かせて。」
「あ、彩ちゃん…だめ、なんか、ん!」

顔を覗き込むとトロンとした表情で涙目になっていた。そんな稔が愛おしくて手で顔を包み込んで優しく触れるだけのキスをした。

「…彩ちゃん?」

少し物足りなさそうな顔で見られる。私だって今のキスじゃ物足りない。でも、流石にまだ明るいしこれ以上は稔が嫌がると思って、止めた。

「あ、彩ちゃん。」
「ん?」

名前を呼ばれたから振り返り稔を見た。稔は立ち上がりドアの鍵を締めていた。

「どうした鍵なんて締めて。」
「なんか変なんだ。…さっきの触れるだけのキスじゃ物足りない。」

ドキッ、心臓が軽快に跳ね出したのが容易にわかる。いつもの女々しい表情から一転、男らしさを魅せるその表情にドキドキが止まらない。

「足りない…?それは、もっと濃いキスがしたいってこと?」
「うん、それと…」

私の方へ歩んで距離を詰めてくる。稔は上から見下ろしながら顔を近付けてきた。その目は潤んで、だけどギラギラしていた。

「稔からキスしてくれるの?」

首に手を回してキスを待つ。いつもは私からするから待つのってドキドキする。

「うん、だ、だから目閉じて、下さい。」
「はは、はい。」

照れくさそうにしてるその姿が愛おしくて見ていたかったけど今回は我慢することにした。唇に落とされたキスは優しく触れるように何度も何度も啄むようにキスをした。

「口、開けて…下さい。」
「はい。」

下さいとお願いされる度に可愛くて笑ってしまう。

「…下手でも笑わないでね。ちゅ。」
「ん、ちゅ。ぅ、はぁ」

下手な訳ないじゃん。いつもしてるんだから。それでもぎこち無く口内を動き回る舌に絡めるように舌を動かす。首に回していた手を頬から下へなぞるように撫で回す。腹部をまさぐり服の中に手を滑り込ませると唇が離された。

「ちょ、彩ちゃん。それは、なんか違う。」
「それは、脱がせるのは俺の仕事、って意味?」

意地悪に笑いながら腰に手を置きゆっくり撫で回した。擽ったいのか身を捩りながら私の手の上に手を重ねた。

「…ごめん、キスの先なんてしたことないから分かんないんだけど、間違ってたら言ってね?あと、嫌だったら…止めるから。」
「大丈夫、嫌じゃないから。でも、まだ明るいし外とかに音とか声、聞こえちゃうかもだけどいいの?」

まだ夜には早いし流石に気にしたりする。特に稔なんて気にしそうだから心配したのだけど、頬を挟まれてキスをされた。舌を絡めて貪るような激しいキス。

「ん、はぁ、無理。」
「え?」
「ごめん、もう止められないや。今日は、聴かれてもいい…」

慣れない手つきで服の上からワサワサ触られて擽ったい。それを誤魔化すかのようにもう一度キスをした。胸をまさぐるように優しく揉む。

「あ、」
「彩ちゃん。」
「ん!あ、」

耳元で名前を一つ呼ばれゾクッと肩が跳ねた。唇はそのまま下へ落ちていき、首、鎖骨、ブラウスの上から胸元にキスが落とされた。

「な、何で笑ってるの?」
「ん?何か、嬉しくて。稔がやっと私のこと求めてくれて。身体の関係なくても愛されてるのは分かるけど、でもあると、それはそれで嬉しいもんなんだよな。好きだよ、稔。」

らしくもない事を言ったもんだから、恥ずかしくて顔が紅潮してきた。

「僕も、彩ちゃんのこと好き、大好きだよ。こんな僕を好きになってくれてありがとう。」

額を突き合わせて笑い合った。


****


う、動けない。まさか稔が3戦するまで止まらないとは思わなかった。

「彩ちゃん?!」
「んう?」
「平気?気持ち悪くない?」
「平気平気。」

稔が心配して声を掛けてくれた。頬を撫でながら、いたわる様に優しく触れる手。それが心地好くて目を閉じた。

「僕、初めてが彩ちゃんで良かったよ。」
「え、」
「身体の関係なくてもいいって思ってたけど、でも、彩ちゃんと一緒になれて嬉しかった。」

稔が目を細めながらニッコリ微笑んだ。

「あのね、これからも宜しくね。彩ちゃん。」
「稔…なんか涙出そう。」

これが嬉し泣きってやつだ。ほんとに涙を流していることに稔の慌てふためいた表情を見て気がついた。稔は優しく涙を拭ってくれた。

「ぐすん、こちらこそ、宜しく!稔。」

手を繋ぎ、触れるだけのキスをした。




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