女の子 | ナノ
夏、補習、ハッピーエンド?

冷房のきいたこの部屋は後少しすれば蒸し暑いだけのただの密室になる。
なのに、私は帰れない。ううっ

「…アイス、食べたいなぁ」

「新野、俺もだ。」

空を見つめながらボソッと呟いた言葉に同意してくれた声の主はにこやかに、いや、引き攣った表情で私を見てた。

「アイス食いたいよなー、なぁ?新野。」

「…はい、先生。」

夏休み、補習の真っ最中という最悪のシュチュエーションに加え、暑さ、そして、苦手な先生の科目。これはもう、いじめである。

「だったら、赤点とるんじゃなかったなぁ。そうすれば今頃家でゴロゴロしながら冷房の効いた部屋でアイス食えたのに。」

「最もです。」

「なぁに、偉そうに言ってんだ、新野。俺だってお前が赤点じゃなかったら少しは仕事が減ったというのに、」

ああ始まった、自分の世界に入って小言を言い続ける、先生の悪い癖だと思う。
ガラガラガラ…

「ん?どうした、学年主席の神崎が補習に顔を出すなんて。」

「…いえ、僕はそこの、新野さんに用があって。」

え、え、なんで?なんで神崎くんが私に?
この問題並みに意味がわからない。

「悪いが新野は補習が終わるまで帰れねーよ?」

「えへへ、」

先生のことを見ていた神崎くんが不意に視線を私に向けた。眼鏡越しの彼の目はつり目でいて鋭い。キッと睨まれたようで悪寒が走った。

「じゃあ先生、僕が新野さんに勉強を教えますよ。その間先生は別の仕事片付けてきて下さい。ね?」

「ん?ああ、まぁ、お前になら任せてもいいかな。じゃあ、取り敢えず11時まで頼んだぞ。」

と言い残して先生は教室から出て行った。教室に取り残された私は神崎くんという存在に緊張していた。

「で、新野さん。」

「は、はい!何でしょう神崎くん!」

あまりに彼という存在に免疫がないことに気がついた。それもその筈。今まで接点など無かったのだから。…たぶん。

「そんな緊張しなくてもいいでしょ、そんな反応されたら、」

彼は私の隣の席に座り、椅子だけを私の方に近づけた。あまりにも急に距離を埋められ、驚いていたら、

「虐めたくなっちゃうよ。」

なんて色っぽく上目遣いで言うもんだから、恥ずかしさのあまり顔を手で覆ってしまった。
虐めるなんて言われてドキドキしてるなんて私Mだったのかもしれない。

「ごめんごめん、さ、課題進めちゃお?」

11時になり、先生が確認に来るまでの間に課題を終えることが出来た。神崎くんの教え方は先生並みに上手でわかり易かった。
だけど、終始緊張したままで疲れた。

「気をつけて帰れよ。神崎もな。」

「はい、さよなら。」
「…さ、さよなら」

なんで、なんで?なんで一緒に帰る流れになってるの?

「帰らないの?新野さん。」

まごまごしている私を見て少し苛立っているようだ。怖いよ、そんな顔しないで。

「か、帰ります。」

「じゃあ、一緒に帰ろうか、途中まで。」

やっぱり一緒に帰るのねー!

「ちょっと寄り道して帰ろ?」

「どこへ?」


****


「公園だ。」

それにしても暑い。
なんで公園?日焼けするよ。

「木の陰に行こ」

あれ?何だろ、私の危険センサーが反応してる。
でもほら私自分からついて行ってるんじゃなくて引っ張られてるから。

「陽があたらないと少しだけ涼しいね。」

「…そ、そうだね。」

私はなんかもう冷や汗か汗かわかんない汗かいてるよ!暑くて仕方ないよ!

「ねぇ、新野さん話があるから近くに来てくれない?」

ジリジリと距離を詰めていったがもう少しもう少しと最終的には腕を引かれて神崎くんとの距離は数十センチ。
なんか、心拍数がやばい。口から心臓でそう。

「…新野さん。僕のことどう思ってますか?」

「天才?イケメン?威圧感がある。掴み所がない。気難しい。」

「…後半はもう悪口のようだな。」

「でも、」

思いつく限りを言ったあとこれだけは言いたかった。いつの間にか緊張は解けていた。でも、心臓はバクバク。

「優しい、気配りの仕方が何ていうかプロ。とにかく、尊敬できる人物。」

言い終えたあとに神崎くんを見上げると、顔を覆っていた。私もいい終えてから急に恥ずかしくなって、何語ってんだ私。
距離をとりたくて後ずさると引き寄せられ抱き締められた。

「ちょ、え!神崎くん?!」

えええええ、やばい何?今なら恥ずか死ねる!

「新野さんは天然なの?たらしなの?馬鹿なの?もう何なの?調子狂うよ。」

「…え?え??」

「やっぱり好きだ、あの頃からずっと。」

どの頃ですか?!え?その前になんて?好き?神崎くんが?私を?へ?

「ちょ、状況が読み取れない!神崎くん?」

「…天然なの?バカなの?告白だよどう見たって。」

いやー!直視しないでいた内容をいとも簡単に!これ!もうやばい、心拍数上がりすぎて死ぬんじゃないかなこれ。

「なぁ、返事は?」

高校最後の夏、赤点補習という最悪のシュチュエーションがハッピーエンドに変わった。のかな…?




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