電車、事件、依頼?
「ねぇねぇ、聞いた?隣のクラスの娘まだ見つからないんだって。」
「知ってるー!バイトに行ったっきり家に帰ってないってその子の友達が言ってたよ!」
正面に座っていた女子校生たちの会話が耳に入る。決して盗み聞きしてるわけじゃない。彼女たちの声が大きいのだ。
「ふぁーあ。」
電車に揺られながら毎朝同じ時間に登校する。欠伸を隠した手でそのまま目頭の涙を拭って目を見開いた。
「ぉ、」
おお!と、声に出してしまうのを抑えて瞬きを二回ほどした。目の前の女子高生達があまりにも無防備であったから。
「ふー」
隣のおじさん鼻息荒いなー、…ああなるほど。
「んんっ!」
隣のおじさんに向かって咳払いをしてみた。おじさんは驚いたようにこちらを向いて顔色を変えた。
「なぁ、おじさん。今何してた?ん?」
「な、なんだお前、俺が何してたって言うんだ!」
スマホをスーツのポケットにしまいながら少し声を荒げて言う。
「大丈夫大丈夫!別に言ったりしないから!それと周りの迷惑になるから声、しっー。な?」
「あ、ああ、悪い。」
安心したように表情が緩んだ。それを見計らって、
「おじさん今女子高生盗撮してたでしょ。」
「ひっ!」
「まぁまぁ、落ち着いて。」
「お前言わないって言っただろ!」
声のボリュームを抑えながら表情は険しい。
「誰にも言ってないだろ?おじさんにしか言ってないさ。」
「な!誰かに聞こえてるかもしれないだろ!」
「じゃあ、盗撮したって認めるんだね?聞かれちゃまずいんだろ?」
「うっ!」
おじさんは額に汗を浮かべながら唇を噛み締めていた。
『まもなく○○駅です。――』
おじさんとにらめっこしていると下車駅のアナウンスが流れた。電車が徐行し始めたので立ち上がり扉の近くに移動した。
「ああ、そうだおじさん。次やってるの見つけたら今度は許さないからね。おじさんの匂い、覚えたから。」
****
電車から降りておじさんの顔を見たけど、青ざめてて面白かったな。つい遊んじゃった。それにしても正面にいたかわい子ちゃんたちが話してた話し少し気になるなー。行方不明の女子高生。許せない。それにしても正面にいた女子高生たち可愛かったなぁー。おじさんが盗撮したくなるのもわからなくもないなぁ。あの太もも!もう見たまんま、もちもちしてそうだし、それに、
「美味しそうだったなぁ、あは、はははは。ぐうぇ!」
「変態確保!お回りさーん!」
肩を組むように頭を腕で拘束されて下を向いたらあいていた口からヨダレがたれた。
「ちょ、マジ汚いから!」
「ごめんごめん、って!じゃあ今すぐ腕ほどけ!光秀!」
腕からすり抜け、押しのける。地面にたれた唾液を靴で踏みつぶしながら軽く握った拳を光秀に向けてはなった。
「待て待て、それマジなやつじゃん!お前のグーパン痛ぇんだからやめろ!」
「辱められたから仕返ししないとな!」
「わー!もー!うるさいよ二人とも!朝からなんなの?!僕朝苦手なんだから静かにしてよ!」
「「いや、お前が一番うるさいよ。」」
私と光秀の間に入ってきた小さいのが腕を上にあげながら大声で叫んだ。周りにいた人達が何事かね?なんて視線でこちらを見ている。
「さ、行こうかー。」
「ミツヒー引っ張ってーおんぶしてー」
「……」
「ちょっとぉ無視しないでよー」
小さいのがグチグチ言いながら光秀にちょっかいを出している。
「あーもう!鬱陶しいぞ!守!」
「ちぇー。じゃあ紫ー、おんぶしてー」
「ん?お姫様だっこ?ああいいよ。さ、おいで。」
両腕を広げ守に迫る。おんぶしてと言っておいて不満そうな顔をしながらジリジリと後ろへ後退し始めた。
「い、いや、お姫様抱っこはいい!嫌だ!来ないでー」
後ろに下がっていってそのまま振り返り走り去って行った。朝が苦手と言っている割には守が一番元気である。
「その、守撃退方法すごいな。」
「いやー相変わらず嫌がってる守の顔!いい!そそられる!」
「…お前も相変わらずドSだな。てか、その顔キモいからやめろ。」
****
「ねぇ、ゆーちゃん。ちょっと話聞いてもらってもいいかな。」
昼休み、学食で光秀と昼食をとっていると隣のクラスの美味しそうな、じゃない、磯部さんが何やら顔色を変えて立っていた。具合でも悪いのだろうか。
「どうしたの、いそちゃん。具合悪そうだけど大丈夫?あ、光秀邪魔かな?」
「おい。」
いそちゃんはゆっくり首を横に振った。ずっと立ってるのもなんだから私の隣の席に座らせた。
「それで、私に話しとはもしかして…」
私の嫁になりたいのかな、ぐへへ。
「おい、顔にやけるなキモい。真面目に話し聞いてやれよ。」
「あのね、私の妹を探して欲しいの!」
何!まさか妹さんを私に?!
「おい紫お前絶対考えてることといそべーが言ってる探して欲しいの意味違うぞ。」
「私の妹、例のバイトに行ったっきり帰ってこない女子高生で噂になってる子なの。」
それって今朝女子高生たちが話してた話の、
「おい紫、もしかして…」
「うん、事件のニオいがする。」
「いや、だからそーだって言ってんじゃん。」
さっきから光秀が的確なツッコミを入れてくるおかげでいそちゃんの表情が緩んできた。よかった。
「ごめんね、うるさくて。でも、いざという時はとっても頼りになるから。」
「紫……どした、熱でもあるのか?そんなこと言って。」
別に正常ですよー、それより話の内容詳しく聞いておいた方がいいな。
たぶん、わたし達の出番だ。
[*前] | [次#]