えい!ぷりる☆ふーる
チュンチュン
ん、
「…朝?」
「桜月ー、あ、やっと起きたのね。もう、お昼よ?仕事いいの?」
「…へ?」
え、嘘。
もう、昼?ヤバっ!
「もう!何でもっと早く起こしてくれなかったの!」
「何言ってるの、」
急いで着替えている私を見ながらエプロンをした母は壁に寄りかかりながら腕を組んでいた。
「いつも通り5時半に起こしたじゃない。ほら」
と言いながら、壁掛け時計の方を指さした。
あれ?ほんとだ。5時半だ。
「まさか、お母さん」
「今日エイプリルフールでしょ?ふふ、騙された?」
朝ごはん出来てるわよー、と手を振りながら母は部屋を出ていった。
私は着替えもそこそこに半裸に近い下着姿で呆けていた。
****
「おはようございます。」
しーん
「…ふぅ」
まぁいつも通りこの時間の女子更衣室は独りぼっちのため返事が返ってくることもない。
さ、制服に着替えて仕事しようかな。
****
「今日ねぇ、空飛ぶペンギン見たんだよぉ」
「ぶっ!」
「汚いよぉ、桜月ぃ」
昼食の時間のため社員食堂で他部署の友達、日和と弁当を食べていた。
そんな中日和が急にぶっ飛んだことを言うもんだからつい口に含んでいたものを軽く噴き出した。
「日和、まぢで見たの?」
「何言ってんの、桜月。嘘に決まってんじゃん。はは。面白かった。」
「…エイプリルフールめ」
また騙された。今日で2回目。
はぁ、何で騙されるのかなぁ私。
****
「ご苦労様、今日はもう上がっていいよ。」
「はい、お疲れ様でした。お先失礼します。」
退社の時間。女子更衣室にはまだ誰も来ていない様子だった。
着替えを終え、玄関に向かっている途中誰かが立っているのが見えた。
「あ、」
笠松君だ。一年下の後輩の男子くん。年齢差は三つ。
「お疲れ様笠松君。」
「お疲れ様です、三村先輩!」
「どうしたの?誰か待ってるの?」
大して意味もなく聞いてみた。
「…先輩を待っていました。」
はぁ、私を…待ってた?
「え?私を待ってたの?どうして」
笠松君は黙り込み、俯いてしまった。
あれ?心なしか笠松君顔が赤い。熱でもあるのかな?
「ねぇ笠松君、具合でも悪いの?」
覗き込みながら近づくと鞄を掛けていない左手をグッと引かれた。
「先輩!好きです!あの、つ付き合ってください!」
「えっ!!?」
はっ、もしやこれも嘘。エイプリルフールだから嘘ついて私をからかって楽しんでるんだ!もう引っかからないぞ。
「う、嘘でしょ?エイプリルフールだから嘘ついてるんでしょう?」
「エイプリルフール?…あ、今日4月1日だった!あでも嘘じゃありません!本気です信じてください!」
「い、いや、今日もう二回も騙されてるから、その手には乗らないぞ。」
手を離してもらおうと後ろに身を傾けて力を入れるが解けない。
「あぁ、もう!先輩はかなりの奥手ですね。…これなら」
「え、」
ドクン、
「信じてもらえますか?」
掴まれていた手を笠松君は自分の胸に当てた。手から笠松君の鼓動が伝わる。とても速い。
「…嘘、じゃないの?」
「はい。好きです先輩。付き合ってください。」
顔に熱が込み上げてくる感覚がある。心臓も、ドクンドクンと速く脈打ってるのが分かる。笠松君の鼓動の速さが移ったかのように。
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