いつからそこに?
文化祭、学校行事の一つで学生皆が勉強を忘れ楽しめる遊び。
学校全体が浮足立ち、出し物の準備が行われる。
私の通うこの学校では、各クラスで何か一つ必ず出し物をする。
教室で喫茶店などをしたり、体育館で劇をしたり、各部活動で活動をしたりする。
例えば料理部や理科研究部が何かやることが多い。
「ちょっと、知乃手伝って!」
斯くして私も只今準備を手伝っている最中なのです。
私達のクラスは出店。
クラスメートの男子が数人で焼きそばを販売するのだ。
なので、他のクラスメートたちは屋台などの準備をすることになっていた。
「何ボケッとしてんの?知乃。具合でも悪いの?」
「ううん。平気だよ。」
「…そう。あっちょっとこれ持ってて。」
手渡された筆を握り頷いた。
筆を下に向ければペンキが垂れて来そうだ。
「はい、ありがとう。」
もういいよといわれ筆を手渡した。
日は経ち、文化祭前日。
準備は着々と完成へ近付いていた。
そんな中、奇妙な事が起こりはじめた。
朝学校へ来るとクラスの人数が少なくなっていた。
文化祭前日に多くの人達が休むだろうか。
何しろ楽しみだと言っていた子達がいない。
おかしい。
先生も連絡を受けていないと言う。
放課後になり、準備が再開された。
前日ということで私達のクラスも買い出しに行く。
行くのは調理担当の小早川くんとサポートの皆川さんと先生。
学校に残るクラスメートたちは少し休憩をして待つことにした。
玄関の所にある自動販売機で飲み物を買おうと向かったら、買い出しに行くはずの二人がまだいた。
「どうしたの?」
「わぁびっくりした。」
皆川さんに驚かれた。
「先生を待ってるんだよ。玄関で待っててと言われたのに、全然来ないんだ。20分位待ってるよ。」
はぁ、とため息をついて言い終えた小早川くんに付け足して皆川さんが言った。
「玄関の外じゃなく中で待ってろって言うのも変なのよねー。外にいた方がいいと思うのに…。」
確かに変だ。
それに放課後になると全校生徒が準備をしている時間なのにやけに静かだ。
私は一瞬背筋が凍りついたような感覚に襲われた。
「…どうしたの?永瀬さん。」
「!……え?」
「ボケーッとしてたよ。」
「…そ、そう。平気、何か感じただけ。…私教室戻ってるね。買い出し行けたらメール頂戴。」
皆川さんの返事を軽く聞き流し自販機で飲み物も買わず、教室の方へ歩き出した。
そして気がついた。
学校中が静かであることを。
最初はもう遅いから皆帰ってしまったのだと思った。
クラスに戻るまでに幾つかある教室を覗いて見て回ったけど誰一人といない。
明日は文化祭だと言うのに。
誰もが楽しみにしていた文化祭の前日がこんなに静かなわけがない。
何か、この学校で起きている。
集団拉致、もしくは非科学的に宇宙人にでも攫われたか。
私はいつの間にかクラスの前まで戻って来ていた。
扉を開けると中では残りのクラスメート達が賑やかに騒いでいた。
「あっ!遅かったじゃん、知乃。あれ?飲み物は?」
「…あぁ、忘れた。」
「何でだ!あははは。」
一人が笑い出したら皆が一斉に笑い出した。
「……ねぇ皆、気づかない?」
皆が静かになり私に目を向けた。
「もう、学校に残ってるの私達だけなの。おかしいと思わない?!」
「そういえば静かだよな、隣のクラスとか。」
「…確かに。」
「え、何で?」
不安や焦りの所為なのかざわついてきた。
「玄関で。」
私が話し始めたら皆が静かにした。
「玄関で先生を待つ皆川さんと小早川くんに会ったわ。20分も待ってるって。…もしかしたら先生達もいないのかも…」
シーンとした中、数人が唾を飲み込み喉を鳴らした。
「…それってヤバくない?」
「…私達も帰らなきゃ…。」
「でもまずは教務室に確かめに行かなくちゃ。まだ誰かいるかも。」
私は手に握った携帯電話に目をやった。
新着メール、着信ともに無し。
まだ玄関にいるのかも。
「じゃあ、取り合えず数人で教務室行かね?」
バラバラになるのは良くないな。
もし何かが起きているなら十分に警戒する必要がある。
私は教室に一歩踏み入れ黒板の前へ出た。
「…言い出しっぺは私なので責任を持ちます。」
「さすが委員長。」
チョークを持ち黒板に文字を書いていった。
「教務室班と、玄関にいる二人が心配なので玄関班。教室で待機班と、学校を見て回る班。今いる人数は20人。」
「21じゃない?委員長合わせて。」
1、2、3、4、5……20、21。
「ホントだ。数え忘れてた。」
「ドジだなぁ、委員長。」
一瞬空気が和らいだ。
「…21人いるから、各班5人だね。じゃあ黒板に書いて。わからなくならないように。あと携帯はマナーモード解除しておいてね。」
一通り皆が書き終えた。
私は余ったので玄関班へ行くことにした。
「委員長、宜しく。」
少し肩を震わせながら細身で長身の男子が話しかけてきた。
「田鍋くん肩震えてるよ。」
玄関班は男子4人に私合わせた女子2人。
「じゃあ、何か気づいたことがあったら連絡を取り合うこと。」
何もないことを祈ろう。
それぞれ向かうべき場所へと移動しはじめた。
玄関へ向かっている途中に私の携帯の着信音が流れ出した。
「もしもし。」
『こちら教務室班。委員長?』
「そうよ。どうだった?」
『ダメだったよ。誰もいない。明かりはついてるし、パソコンとかもつけっぱなしなのに。』
つけっぱなし?
殆どの教室の電気は消えていたのに?
「ありがとう。わかったわ。皆で教室に戻ってて。」
『了解。』
通話は終了した。
「委員長、玄関に着いたよ。」
「…皆川さん?小早川くん?」
呼んでみたけど応答がない。
それに見当たらない。
「もしかしたら買い出しに行ったんじゃ…。」
「いや、連絡は来ていないから行ってはいないと思う。」
「…?」
私の後ろで裾を掴んでいる小柄で可愛い女子が首を傾げている。
「あぁ、皆川さんに買い出しに行ったら連絡をくれと言ってあったの。だけど連絡は無かった。」
じゃあ何処へ?
「行き違いになったんじゃない?この学校広いからどの廊下通っても俺らのクラスにたどり着くし。」
確かにその可能性はある。
だけど行かなくなって教室に戻ると言うならそれはそれで連絡をくれないのは少しおかしい。
「…!?」
また、背筋が凍り付くような嫌な感じ。
「…もしかすると。」
私は気になっていた玄関のドアに近づいた。
「委員長?」
ドアに手を掛けて押してみた。
ガッ!開かない!
内側から鍵?
「え?!何で?何で開かないの!」
「落ち着いて。よく見て。鍵が掛かってるのは内側から。」
カチャ。
ゆっくり鍵を回して開けた。
もう一度ドアを押した。
ガッ!っ!!?
「開かない!」
鍵は開けたのに。
「嘘だろ。くっ!こっちも開かない!」
「窓もだ!窓も開かない!」
「キャー!」
「大丈夫。落ち着いて。」
私は小柄な女子を抱きしめた。
「皆、逸れないでね。集まって。…これから、教室に戻る。いい、逸れちゃダメよ。」
5人が頷いた。
私達は手を繋いで教室まで歩いた。
教室の近くまで来ると静かなのに気づいた。
「…ごく。」
唾を飲み込む音が暗闇の中響いた。
もしかしたら、なんて不安が過ぎる。
「…た、だいま。…皆?」
「おい、嘘だろ?」
「誰もいない。」
南雲くん清水くん私の順に言葉を発した。
教室の中には誰一人いなかった。
待機班だけじゃなく恐らく教務室班もいない。
この短時間の間で10人、いなくなった。
教室に戻って来る間に見回り班に会わなかったからまだ見回りしてるかもしれない。
「浅木さんに電話してみて。」
「わ、わかった。」
南雲くんに浅木さんに電話を掛けてみるようお願いした。
…無事なことを祈る!
私達は真ん中に集まった。
「…あっもしもし?浅木さん?皆いる?」
『―ない。た―――!…イヤー!!ブツッ』
「えっ…。ちょ、何今の。助けてって、どういうことだよ!」
「南雲くん、浅木さんは何て?」
通話中の話しは聞こえなかったけど、南雲くんの緊迫した表情からただ事ではないことが起きているとわかった。
彼自身、イマイチ話しの内容がわからないというふうに疑問符を浮かべていた。
「いない。助けて!って言われたんだ。何が起きてるんだよ、まったく。」
恐らく電話したときに浅木さんの傍にはこの怪奇現象の元となる何かがいたに違いない。
宇宙人若しくは生徒たち全員を拉致している犯人。
どちらにせよ、非常事態なのには変わりない。
「…私達も、消されるかもしれない。」
「え。……ま、じ?」
5人の顔が一気に青ざめた。
「確かに、この教室に居たら皆のように居なくなるかも。」
「この学校に、誰も居なくなったらどうなるの?誰も助けに来てくれないよ!?」
確信をつく坪内くんに続いて間宮さんが言った。
確かにそうだ。
全校生徒が居なくなったなんて、事件として取り上げられるに違いない。
だけどもしかしたら迷宮入りする可能性が高い。
当事者がいない、それと加害者がわからない。
事件になったら解決の糸口がなくなる。
もし私達が生き残ったとしても事件は解決できない。
「なぁ、窓から飛び降りね?そうしたら逃げられるかも。」
「3階だぞ!逃げれても大怪我だ。」
まず問題は窓が開くか。
玄関と同じで鍵が開いても窓は開かないかも。
「試しに開けてみよう。」
窓に近づき鍵を開けた。
ゆっくりと横にスライドさせようとしたとき、教室の扉が開いた。
そこに立っていたのは首を傾けて下を向いているスーツを着た男性だった。
「先、生?」
私の後ろに隠れている間宮さんが聞いた。
直ぐには返事はなく、先生は頭をあげニッコリ微笑んだ。
そしてゆっくり歩み寄ってきた。
「…何をしているんですか?もうこんなにも暗い。早く帰らなくては……カ、エレ、ナ、クナ、ル、ヨォォォォ?」
「「ひぃぃっ!!」」
「何だっ!どうした!」
「「…っ。」」
「…様子がおかしい。」
途中で止まった先生は、操られてるかのようだ。
だが、そんなことがありえるのか。
窓を開けようとしたら現れたのも気にかかる。
「帰りたいのですが、帰れないのです。玄関の鍵を開けてください。」
平静を装い先生に質問した。
「…カエ、サナイ。贄ハオ、オイ、ホ、ウガ、イイ。」
贄?まさか何かの儀式的な?
それとも人間を餌とする何者のか?
どちらにせよ有り得ない!
…窓を開けて飛び降りるしかないかもしれない。
「スルド、イノ、イル。キケン。ツカ、マエロ。」
?!
心中を読まれた?
「何で私達なんだ!」
「ワカクテオイシイ。」
背筋が凍る。
美味しいといわれたら結果、食糧だ。
バン!と教室の二つの扉が開き、先生の姿をした何かが数人現れた。
それと同時に言葉を失い立ち尽くしている南雲くん達に向かって走ってきた。
「キャーー!」
私は近くにいた間宮さんを庇い、先生達の前へ立ちはだかった。
「…っ!」
私の目の前まで来た先生達の姿をした何かは足を止めた。
それらは言葉じゃない唸り声をあげ私達のことを観察するように目玉をギョロギョロさせた。
間宮さん達は恐怖のあまり座り込んでしまっているらしい。
「オマエ、違ウ。」
?
今私に向かって言った?
なんて一瞬呆けている間に間宮さん達を奪われてしまった。
「?!止めろっ!彼女達に触るな!あっ!待て!!」
教室から飛び出した奴らを追って、閉められた扉を開けて廊下に出るとそこは何故か玄関で、既にその外にいた。
彼女らを含め学校中の皆がいなくなってしまった中、私だけが外へ放り出された。
辺りは薄暗く、梟の鳴く声がする中、私は独り喚き散らしながら泣いていた。
―数年後。
とある田舎町。
「文化祭楽しみだね。知乃。」
「…そうだね。」
彼女は、微笑んだ。
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