女の子 | ナノ
チョコ味

口の中に入れられたチョコ。
苦いけど甘い。
その固形物をかみ砕いて飲み込む。
口の中に残る甘い風味を消すためお茶を流し込んだ。

「…甘い。」


「ねぇ真緒!」

「何?」

彼女の問い掛けに直ぐさま返事をした私は中村真緒。
そして質問してきた彼女は相澤望。

「今年の誕生日は何が欲しい?」

誕生日。
歳をとるだけのイベント。
何て言ったら産んでくれた親に怒られてしまう。

「金か愛。」

なんて言ってみる。

「ケーキでいい?」

彼女は人の話を聞いていない。
私がふざけると大抵無視する。

「あっ!真緒、甘いの駄目なんだっけ?」

「…食べれなくは無いよ。苦手なだけだから。」

好んで甘い菓子などを食べたりしない。
物凄く苦手。

「うーん、無糖のケーキは美味しくないよ。諦めなきゃ。」

ありがとう。

「じゃあ、カボチャプレゼントしようかな。」

「え何で?」

菓子の名前が聞こえなくて聞き返した。
カボチャプリンでもケーキでも無ければ、普通のカボチャ。
調理前のカボチャのことを言っているのだろうか。

「なんでって、真緒の誕生日ハロウィンの日じゃん。だからジャックランタン作るの。一緒に。」

「一緒に?!」

作った完成品をくれるのではなく一緒に作るの?

「最後のトッピングだけだよ。」

「そっか。…って、トッピングって何するの!?」

逐一突っ込みを入れながら会話をするのも疲れてきた。

「智弘さんからは何貰うの?」

智弘?
ああ、奴のことか。

「知らない。最近会ってない。」

あの日から会っていない。
連絡すらとっていない。

「まだ、喧嘩してるの?」

「だって……ムカつくんだもん。」

ボソッと小さく愚痴を零したのにも関わらず望は、ため息をついて馬鹿にしてきた。

「まだまだ子供だなぁ、真緒も。いい加減大人になりなよ。早く許してやりなって。」

分かってる。
つまらないことで怒ってるのも、私が子供なのも。
だけど自分からは謝りたくない。
私は悪くない。
あいつが悪いんだもん。
智弘が謝って来なかったら許してやらない。

「嫌だ。私は智弘が謝って来なかったら許さない。」

「強情だねぇ。…まぁいいんじゃない?それがあんたらの愛の形なら。」

何それ。
愛なんて形はない。
歪な形をしていて脆いのが愛なんじゃないの?

「……。授業、始まるよ。」

チャイムが鳴り席に戻るよう促した。

「じゃ、また後でね。」

「うん。」



10月29日、日曜日。
誕生日まで後二日。
平岡智弘からは連絡が無い。
嗚呼、自然消滅ってやつかな。

「…はぁ。」

私は家でダラダラしていた。
することもなく、ただ時間が過ぎる。
家には私とペットのノエルしかいない。
すると車の音が聞こえた。
両親が戻って来るには早過ぎる。
お客が来たのかなと、一応一階に下りて行った。
案の定玄関のチャイムが鳴った。

「はーい。」

軽く返事をしながら、玄関の扉を開けた。

「どちら様で…すか。……」

扉を開けたらそこには数日連絡をとっていなかった智弘がいた。

「真緒。えっと、この間はごめん。俺が悪かった。…許してくれる?」

「嫌だ。」

即答且つシンプルに。
でも、本心じゃない。
だって、智弘に会えてとても嬉しいんだもん。
目頭がジーンってしてきた。

「…真緒。」

下を向いている私を玄関の奥に押し、扉を閉めた。
智弘を見上げると嬉しそうにしていた。
その顔見たら涙が溢れた。

「…ふぇ。…ん!」

泣き出しそうになった私を思いっきり抱きしめた。
力強く、隙間なく。
久しぶりに嗅いだ彼の匂いは、やっぱり甘い。
抱き着いた彼の服を涙で汚さないように離れた。

「…智弘、会いたかったよ。」

泣きながらくしゃくしゃの笑顔を見せて、背の高い彼の頬にキスをした。

「俺も真緒に会いたかった。だけど、けじめつけなきゃいけなかったから、ずっと我慢してた。」

彼は少し間を置いて、話しつづけた。

「あの日、無理矢理チョコ食べさせてごめん。甘いの苦手なの知っていながら、ちょっとテンション上がってた。これなら食べてもらえるんじゃないかって。」

あの日口に入れられたチョコは彼のオリジナルで彼が私のために作ってくれた、チョコ。
甘さを控えて作ったんだよ。って嬉しそうに話す彼は生き生きしていた。

「…食べられなくてごめん。」

何だか申し訳なくなって謝った。

「食べて(飲み込んで)くれたじゃん!それだけでも嬉しかった。吐き出されなくてホッとしたもん。でも甘かったんだね。」

「…うん。でも市販のチョコより美味しかった。」

これは本当。
実際最近は自分でチョコを買ったりはしないのだけど。

「ありがとう。…それで、俺、真緒の誕生日にあわせてケーキ作ってきたんだ。」

ん?

「車に入れてあるから取って来るね。」

智弘は楽しそうに玄関を出て行った。
これじゃあ以前と変わらないんじゃないかな?


車に取りに戻った智弘が再び玄関に入ってくるまで私は放心状態だった。

「部屋に行っていい?」

なんて聞くもんだから、

「ダメ!リビング!」

って言ってやった。




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