恋の始まり | ナノ
第5話

「………。」

全裸で床にへたり込んだまま動けずにいた。
男は私のことをほっておかなかった。

「立てる?」

そういい何食わぬ顔で私の腕を掴んだ。
ビクッ

「何もしないよ。」

捕まれただけで怯えてしまった私を見てその男は優しく腕を引いた。
男は近くにあったバスタオルを私にかけた。

「あ、ありがとう。…ございます。……えっと…」

「ん?あぁ、俺は…」

ガラガラガラ
扉の開く音がして男の横からヒョコッと顔を向けると、タオルをたくさん持った和沙のお母さんが立っていた。

「……この馬鹿息子ー!!」

「うぐっ!」

腹に一発喰らった男はしゃがみ込んだ。
おばさんはバスタオル一枚の私の手を引いて抱き寄せた。

「大丈夫だった?何もされてない?あぁ、可哀相に。」

タオルの上から体中弄られて擽ったかった。

「…大丈夫です。」

「ケホッ。久し振りに帰ってきた息子に対する最初の言葉が馬鹿息子って…てかその女誰?」

お腹を押さえ立ち上がった男に指を指され、私はどう答えて良いのか分からず吃ってしまった。

「えっとわ、たしは…」

「何の騒ぎだよ。って百花さん?!何でそんな色っぽい恰好してるんですか。」

「煩い!」

和沙は騒ぎを聞いて駆け付けたらしく私の姿を見て騒いだらおばさんに気圧されていた。

「ん?おぅー和沙じゃん。ひさしぶりー。」

「げっ!」

男は親しげに和沙に手を振った。
笑顔の男とは裏腹に、和沙の顔はさっきに増して引き攣った。




「では、改めて。」

私は服を着て、元井家の皆とリビングへ移った。
そこでは、先程の男が自己紹介を始めていた。

「和沙の兄、元井洋祐。22歳ね。」

最後に“よろしく。”といって手を差し延べた。
その手を握ろうと手をゆっくりと差し出した。
パシッ

「?!」

洋祐さんの手を握ろうと、差し出した私の手を握ったのは和沙だった。

「いいよ、握手なんてしなくて。妊娠するかもよ?」

「はぁ?中に出さなきゃ妊娠なんてしねぇよ。ガキが調子に乗るな。」

まぁ、触れただけでは妊娠するわけないのだけど。
今のは私に洋祐さんに触ってほしくなくて言った冗談だろうに。
そんなに真剣に返さなくても…

「…じゃ、君も名前、教えてくれる?」

そういわれ、和沙をちらりと覗き見ると、ご機嫌ななめな様子だった。

「…澤井百花、17歳です。…よろしく…お願いします。」

「はい。よろしくね。」

そういった洋祐さんはニコッと笑った。

「それにしても、まさか和沙が年上の彼女連れて来るなんてなぁ。ははは、笑える。」

「うっせー!」




そのあと、私は洋祐さんからの質問攻めにあっていた。
それに見兼ねた和沙が私をリビングから連れ去った。

「…ったく、何あれ。おもし。」

「構うんじゃないよ?」

「帰ってくるなら連絡くらいしなさい。お前の部屋、百花ちゃんに貸してしまったよ。」

「いんじゃない?俺と一緒に寝れば。くくく。」

「「駄目だ。」」

「…冗談だっつの。(さぁて、夜が楽しみだ。)」


その頃の私たちは、洋祐さんの企みに気付いていなかった。




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