恋の始まり | ナノ
第3話

「…き。」

「え?」

私は和沙に抱き着いたまま。
和沙は私に抱き着かれたまま、会話を続けた。
だけど私の発した言葉は小さすぎて和沙に届いていなかった。

「……もう一回お願いします。」

一回で聞き取ってもらえないのはこんなにも恥ずかしいのか。

「…好き。」

少し涙目になりながら意を決して、想いを告げた。

「百花さん、一旦腕解いてください。」

「え?あ、ごめん。」

頑張って想いを伝えたのに、何か予想と違う。
そう思いながら、腕を解くと和沙は振り返り、今度は和沙から強く抱き締めてきた。

「え!?和沙?」

「好きっす!大好きっす、百花さん!」

抱き着いたまま、歓喜のあまりおかしなテンションになっていた。

「お、落ち着いて和沙!あんまり締めないで、苦しい。」

「ははは、だって嬉しくて!やっと、両想いになれたんですよ?これからもっと百花さんに会えるじゃないすか!もう、ホント嬉しくて。」

うぅ、可愛い。すごく愛おしい。

「…私も嬉しいよ。」

恥ずかしかったけど、手を背中に回して抱き締め返した。

「…付き合って、くれるんすよね?」

「うん、いいよ。」

抱き締めあったままキスをした。
触れるだけの優しいキスを。

「百花さん、一つお願いがあるんすけど聞いてくれますか?」

体を離し、肩に手を置かれた状態にさせられた。

「敬語じゃなくタメ口で話したいっす!」

…和沙のそれは時たま敬語だからね。
ほぼタメ口に近いので喋ってるからね。

「…うーん、年が明けたらいいよ。今年のうちはダメ。」

「えー!それじゃあせめて、今日この一日だけでも先取りでタメ口使いたいっす!」

「…それならぁ、いいよ?」

ガバッ!
和沙は勢い良く抱き締めて耳元に顔を近づけた。

「ありがとう、百花。」

ゾクゾク。
耳元で名前を囁かれて、何かヤバい。
力が上手く入らない。

「ねぇ百花。今日家来ないか?」

「え?」

虚ろになりながら耳元で囁かれた言葉を聞き取り、返事をする。

「今日家に来いよ。折角だし泊まっていけばいい。」

「いや、泊まりは無理でしょ。道具無いし。それにクリスマスなんだから家族いるでしょ?」

「…ふーん。それは二人きりじゃなきゃ泊まりは嫌だって言ってるのか?可愛いな。」

んぅ!
なんで、和沙なのに、喋り方が少し変わると性格が別人みたいになるの?

「…違うよ。夜は家族と過ごした方がいいんじゃない?」

「違うの?」

……別に二人きりじゃなきゃ嫌だなんて思ってない。
だって泊まるって言っても和沙まだ中学生だし…、和沙からされる心配はないかもしれないけど、…私が…触れてしまうかもしれない。
そうしたら和沙は嫌がらないと思う。
だからまだ、中学生のうちの和沙とはしない。
変な気分にならないためにも泊まりはしない。

「うん、違う。和沙ともいたいけど今日は十分楽しかったから、それで充分。」

私は和沙を見上げ笑顔で言った。

「…わかった。今日は諦める。」

ホッ。

「だから、最後に一つ我が儘いいか?」

タメ口が最後の我が儘じゃなかったのか…。

「…何?」

私は恐る恐る聞いた。

「…百花からキス、してほしい。…深いやつ…。」

最後、ボソッと言ってたけどしっかり聞き取れた。
聞こえた言葉が頭の中でグルグル回りはじめた。
和沙の声、しかも照れた顔、少し潤んだ瞳。
どれも私のもの。

「…少し、口開けて。」

首に腕を絡ませ、近づいていく。
艶めかしく重ねた唇は和沙を食むように離さない。
舌を絡め、呼吸困難に陥りそうなので程々にしてやめようと思っていた。
ちょうど苦しくなりそうだったので、唇を離そうとしたら、和沙に引き止められた。

「っ!?」

ちょ、苦しい。
頭を押さえ付けられていて離れられない。

「…ん。」

無理矢理絡めてくる舌に堪えながら目を瞑った。
ちょっと、ヤバい…苦しい。
首に回していた腕を解いて和沙の胸に手を当て押した。
ギブ!ギブ!
したことあるのかな?
結構上手なんだよね…和沙。

「んぅうー!」

堪えられなくて唸っていると和沙は、バッ!と唇を離した。
少し離れ下を向いて荒い呼吸を整える。

「百花、やっぱり上手なんだな。俺、へ、下手じゃなかった?」

っ!な、何その顔。
可愛い、可愛い、可愛い!
そっか、和沙初めてだったのかな?深いのは。

「クスクス。」

「な、何笑ってんだよ。…っ!」

私は和沙に抱き着いた。

「初めてだったの?」

「う、…うん。深いのは。」

あはは、やっぱり。
でも上手なんだな。
私は和沙の耳元に近づき、囁いた。

「上手だったよ。凄く、気持ち良かった。ふふふ。」

「…!!」

私は抱き着くのをやめ離れた。
和沙を見ると私が囁いた方の耳を抑え、顔を真っ赤にしていた。
真っ赤になったり、照れたり、笑ったり。
これから全部私のもの。

「帰ろっか。」

「…はい。」


私達は待ち合わせをした場所で解散した。
和沙は送ってくって言ってくれたけど、私が遠慮してもらった。
私が家へ着いて部屋でのんびりしていると電話がなった。

「もしもし?」

『俺。ちゃんと家に着いたか?百花。』

和沙それ電話でも有効なのか…
心配して電話かけてくれたんだ。

「大丈夫。ちゃんと着いたよ。和沙は?」

『もう少しで着く。…今日はありがとう。』

何改まって。

『楽しかった。…また遊ぼうな。絶対。…あーもう毎日会いたい。』

「私も、そう思うよ。」

離れて気づく。
私達恋人どうしになったんだ。
だからこんなに和沙に会いたいんだ。

『…じゃあもう着くから、切るな。…おやすみ、百花。』

「うん、おやすみ。好きだよ、和沙。」

『お!俺も好きだ!大好きだ。百花。』

ピッ。
嗚呼恥ずかしい。
自分から言うのも恥ずかしいけど言われるのも恥ずかしい。

「はぁ。」

っ?!
部屋の向こうで物音がして驚いた。
あれ?まだいるの?
私は部屋を出て音のする方へ行ってみた。
場所はリビングで、キッチンからは焦げた臭い。

「―――ぁ!」

っ!!
中からは女の喘ぎ声。
これじゃ、夕飯作れないや。
コンビニに買いに行こう。


夕飯を買い、戻るとちょうどさっきの喘ぎ声の女が玄関から出てきた。

「あら、おかえり、百花。…またコンビニ弁当?ちゃんと作ったの食べなさいよ。」

「……。」

あんたがリビングに男連れ込むからキッチン使えないんだよ。

「仕事?」

「そう。ちょっと遅刻だわ。あぁ、そうだ。目玉焼き、焦がしちゃったのよ。片付けお願いね。」

“慣れないことはするもんじゃないわね。行ってきまーす。”
なんて独り言のように言いながら、歩いて行ってしまった。

「いってらっしゃい、お母さん。」

て、言うと手をひらひらさせて見せた。
あんなのでも母親やれるんだからこの世の女は皆、母親出来るだろうな。

「けっ。」

折角いい気分だったのに、冷めちゃった。

「…ご飯食べよ。」

こうしてクリスマスは終わった。




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