第1話
……。
何でドキドキ止まらないの?!
何でこんなに緊張するの?
あぁ、もう私、おかしい。
「ねぇ、名前。教えてよ。」
「ふぇ?…な、名前?」
変な声出た…。
「そう、名前。教えてくれないのなら襲う。」
?!
何で名前聞きたいんだこいつ!
これっきりだろうが…!
「人に名前を聞く前に自分が名乗ったらどうなのよ!それが礼儀ってもんでしょ?」
「……。」
男は黙って目をパチクリさせた。
急に怒鳴ったから驚いたのか?
「それもそうだな。」
はい?
納得してくれたのか?
男は起き上がり、私の手を引いて体を起こさせた。
そしてソファにちゃんと座らせ、男も隣に座った。
「俺は、元井和沙。」
かずさ…。
「女の子みたいな名前ね。ふふふ。」
「(笑った!)」
!
いけない。
つい笑ってしまった。
名前を聞いて笑っちゃうなんて、失礼だ。
「ごめんなさい、笑ってしまって。」
「え?いいよ、気にしないで。それより、あんたの名前も教えてよ?」
あぁ、そうだった。
えー、教えなきゃダメなのぉ?
「えっと、勿論本名だよね?」
和沙は大きく頷いた。
「…澤井百花。」
「ももか?可愛い名前だな。」
うぐっ!
何という笑顔なんだ!
眩しい!
そして照れるな私!
「…あ、ありがとう。じゃ、じゃあカーディガン返して。」
思いっ切り立ち上がり手を和沙に差し向けた。
が、手を掴まれソファに引き戻された。
「まぁまぁ、そう急ぐなって。もう少し話してけよ。な?」
何なのこいつ、しつこ過ぎる!
ぐいぐい来やがる。
それよりお前、
「歳、いくつ?」
馴れ馴れしいがタメなの?
「ん?俺、中3。百花は?」
「…って年下じゃん!」
はっ!
よく見れば黒のズボン。
うちの高校はグレーのズボン。
黒だと、学ランか?
「百花、中3じゃねぇのか?俺はてっきり同じくらいかと。制服違うけど。」
制服見て気づけよ。
北高の制服くらい見たことあるだろうに。
「じゃあ敬語使わなきゃなんねぇな。」
…今更だけどね。
「百花さんは何年なんすか?」
…イマイチ敬語になってない。
「…高2。」
「やった!一年一緒に通えますね。」
“百花さんも北高すよね?”なんて聞きながら喜んでいた。
和沙も北高か。
まぁ、そりゃそうか。
ここら辺、高校少ないしね。
「進路、北高なのに何で制服わかんなかったのよ。」
「制服とか興味ないっすから。」
会話終了。
てか、帰りたい。
何で中学生の相手しなきゃならないの?
折角今日はバイト無いのに。
家でゴロゴロしたいよー。
「ねぇ、百花さん?百花さんは彼氏とかいないんすか?」
いません。
はっ!ここはいると嘘付いて帰るか。
が、いると言ったとして諦めてくれるかが問題だ。
「い、いま…」
「嘘付かないでね、百花さん。」
冷。
あぁ、何か恐い笑みだ。
「いません。彼氏なんていません!」
「何でキレてるんすか!どれくらいいませんか?」
「え、っと、…8ヶ月かな?」
考え、前彼と別れた日から8ヶ月経っていることに気づいた。
今思い出すといい想い出…。
「百花さんモテそうですもんね。…じゃあ、クリスマスの予定は何かありますか?」
「クリスマス?」
頷いた和沙を見て考えた。
「イブに友達と遊ぶ予定。」
25日は皆彼氏とデートって言ってた。
悲しいよね、独り身って。
…あれ?何で和沙に教えてんだろ?
「じゃあ俺とデートしてください。」
…えー。まぢでー?
「…考えとく。」
何で断らないんだ自分?!
「やった!じゃあ携帯教えてください。」
あれー?
もうそんな展開ぃ?
こんなに早く進んでいいのぉー?
ねぇ、どうなのぉー?
クリスマスイブ、の夜。
友達とカラオケやショッピング、食事などをして帰宅した。
和沙と初めて会ったあの日から時は経ち、イブ。
今日までの間に和沙とメールした件数数知れず。
一日一回は電話をした。
多分、今月の携帯料金高いだろうな。
「はぁ。」
『どうしたんすか?ため息なんかついて。』
電話越しから聴こえる和沙の声。
「…何でもない。」
『そうすか。それで明日の事なんですけど。』
「…ねぇ、ホントにデートするの?」
“はい、勿論!”なんて嬉しそうな声で言われたら、今更断れない。
『じゃあ時間は9時。場所は○△駅で待ち合わせということで。』
「…はーい。」
“おやすみなさい。”と電話を切った和沙はいつもより元気いっぱいだった。
翌朝、25日の朝がやって来ました。
いつもより早く目が覚めてしまったため、ゆっくりと支度をした。
○△駅に向かうため8時半に家を出た。
駅に着くと既に和沙は待っていた。
私を見つけた和沙はいい笑顔で手を振ってきた。
「……。お待たせ。」
私は無言で和沙の元へ行くと、時計を見た。
「…待った?」
“いいえ。”と首を振ったが怪しい。
「何分前からここにいるの?」
「60分前です。」
はぁ、それって1時間じゃん。
「ごめんね、待たせて。帰りは和沙に合わせるよ…。」
「ありがとうございます!」
…帰りたい。
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