恋の始まり | ナノ
第6話

「あ、そこ。…そこに出して!」

「そこじゃなく、ここだろ?」

「あ!違っ、あぁー。」

「次僕の番ですね。」

「お願い、次はちゃんと…」

「分かってます。ここ、ですよね?」

「違っ、そこ、ダメ!あぁーぁ。」

注意。
現在私、和沙、その兄はカードゲーム中です。

「二人とも意地悪しないで出してよ、カード。」

唯一出せるクローバーの9のカードを置き、避難した。

「何言ってんの。それじゃ面白くないじゃん。七並べは誰かをはめるのが楽しいんだから!」

それが醍醐味ってもんでしょ?と不敵な笑みを浮かべて洋祐さんはカードを一枚出した。はぁ、

「ほんと、いい性格してますよね。」

兄弟って似るだろうから和沙にも鬼畜な面があるのだろうか。
想像したくないな。

「ちょ、ももかさん。こいつなんかと仲良く話なんてしないで下さいよ!」

和沙はヤキモチ妬きなんだなぁ。
それより、

「嫌味言い合ってるのに仲良さそうに見えるの?」

「それもそうですね。」

「おいおい、俺の前でいちゃつくなよももかちゃん、和沙なんかといちゃついてないで俺といちゃつこう?」

さぁ、おいで。と手を広げ近づいてきた。

「いえ、結構です。」

そんなこと言わないで、と笑みを浮かべながら突然倒れこんできた。

「ちょ、」

とっさに和沙を引き寄せ、洋祐さんと向かい合わせた。
すると洋祐さんはすぐにとまった。

「な、何するんですか?!ももかさん!」

「私を守って。」

お願い、と耳元で追い討ちをかければすぐさまやる気を出した和沙が洋祐さんを軽く突き飛ばしていた。

「これ以上近づくな色魔!」

「ひどっ!てか、和沙お前顔真っ赤だぞ。」

にやけ顔で洋祐さんは和沙をからかい、赤面している和沙は顔を隠しながら赤くないと!と否定した。
が、後ろにいる私ですら和沙が赤面しているということが容易に分かった。

「耳まで真っ赤だよ、和沙。」

見ないでください!と顔を伏せてしまった和沙。
それを面白がって放っておかない洋祐さん。
こうしてみると、二人は意外と仲良しだ。

「ふふふ。」

和沙をいじめていた洋祐さんが手を止めて私を見た。

「どうしたの、急に笑って。」

驚いている様子の洋祐さんの顔がさらに可笑しくて吹いてしまった。

「も、もかさん?」

和沙が心配そうにこちらを伺う。

「…楽しいね。兄弟って、家族っていいね。」

二人を見つめていると洋祐さんが抱き着いてきた。

「ぇっ?!よ、うす、」

「あ、こら馬鹿兄!」

近づいてきた和沙を巻き込み、洋祐さんの腕の中に和沙と包み込まれた。

「どうしたんですか?急に。」

「それはこっちの台詞。ももかちゃんさっき暗い顔してた。」

どれ、お兄様に話してみなさい。と胸を張られ、どうにも困った。

私、暗い顔してた?

洋祐さんにはそう見えたのかな?

「…話すと言っても……何について話せば?」

「もう!しらばっくれないでよ!あたし寂しいわ!」

急にオネェ語で話し出した洋祐さんに少し引いた。

「…家族、って単語でしょ。暗い顔の原因。」

家族?
家族っていいねっていたやつかな?

「…分かりません。」

自分でもよくわからず、そう答えるしかできなかった。

「…正月なのに両親と過ごさないの?」

ドキン。
両親、という単語に心臓が跳ね上がった。

「…そ、れは、」

「……?」

横で和沙が、頭の上にクエスチョンマークを浮かべているのが分かった。
洋祐さんはさっきとは違い真面目な顔をしていた。

「母は、仕事なので、…家にいません。」

正月なのに仕事。しかも夜なのに。
普通は家にいるものだ。
きっと洋祐さんはここに引っかかったのかもしれない。

「父親は?」

お父さんも仕事なの?と聞かれ、心臓がバクバクと暴れだした。
父親、なんて。

「ぅ、…い、いません。うっ。」

父親にいい思い出なんてない。むしろ逆で、…悪いものしかない。

「うっ!っん!」

口を抑え苦しみだした私に駆け寄り背中をさすってくれたのは洋祐さんだった。
吐き気と共に込み上げてきたのは涙だった。




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