いつか君を。 | ナノ
第2話

日が差し込む窓際のベッドで目を覚ますとイスに腰を掛けている女の子がいた。

その娘は俺が目を覚ましたことに気が付いたのか急に立ち上がった。



「…平気?」



平気?この状態で平気なわけがない。

なんてったって階段から転がり落ちたのだから。



「な、わけないか。悠哉、何か欲しい物ない?」



日が眩しくてよくわからなかったけど、…菜月だ。

一応付き合ってる。

でも、…



「……、」



俺は喋るのが億劫だったため軽く首を振った。



「…そう。」



菜月は笑顔を苦笑いに変えた。

来づらかったら来なくてよかったのに…。

俺たちは今、別れるか別れないかの話をしている。

別れたいと言ってるのは俺で、菜月の浮気に気づいてしまったため、これ以上は付き
合えないと思った。



「…ねぇ、悠哉?」



呼び掛けられた方に少し首を向ける。



「…ん?」



「私たち、やっぱり別れよっか。…こんな時に言うのもどうかと思うけど、…」



菜月は少し黙り込んだ。



「私、悠哉に迷惑かけたもんね。これ以上、悠哉の困った顔見たくないや。」



俺、困った顔してた?

菜月から目を逸らしてすぐ眼球だけ戻して菜月を見ると、今にも泣き出しそうな顔を
していた。



「…泣くな。今の俺じゃ慰めてやれない。」



こんな状態だし。



「ふふふ、泣かないよ。悠哉に迷惑かけたくないから。」



きっとこの後廊下に出て俺に聞こえないように声を殺して泣くんだろうな…。

菜月はそういう奴だ。

それに、ここで泣かれたからって俺は別に迷惑だとは思わない。



「やっぱり泣いとけ。迷惑じゃないからさ。」



俺は動かしにくい頬を引き上げ笑って見せた。

その瞬間菜月は大粒の涙を落として泣き出した。

それでもやっぱり声は殺して静かに泣いた。



「う、ゆぅやぁー。」



菜月は寝ている俺に抱き付いてきた。

痣になってる所にあたったのか所々が少し痛んだ。



「好きだよ、ゆーやー。別れたくないよー!」



泣きながら駄々をこね始めた菜月はまるで子供のようだった。

菜月の印象は強気で可愛い。

綺麗系か可愛い系かと聞かれたら断然可愛い系の守ってあげたい感じの子だ。

男子からもかなりの人気。

菜月のことは誰もほってはおかないだろう。

俺と別れたことが広がれば菜月に群がる男子が出るだろうな。

可愛いから仕方がないと言われようと、俺は菜月がしたことを許さない。

浮気は裏切りだ。



「ごめん。別れよう、菜月。」



俺も、菜月のこと好きだったよ。







泣き止んだ菜月が病室を後にして、一時間が経過した。

すぐには納得してくれなかった菜月も落ち着きを取り戻し、小一時間前にようやく
帰ったのである。

そのあと俺は眠りについていた。





何時間経ったのか、烏が外で、カァーカァーと鳴きながら飛んでいく影が窓ガラスか
ら映ってカーテンに見えた。



「…失礼します。」



誰かがこの部屋に入って来る声が聞こえた。

その声は母のものでもなく、先程までいた菜月の声でもない知らない女の人の声だっ
た。



「……はい。」



この病室は一人部屋で、この部屋に訪れる人は必然的に俺と知り合いの人に絞られ
る。

先生や看護婦さんということもあるが…。



「どちら様でしょうか。」



俺はまだ一人では起きられないため、自分では、扉側に引かれたカーテンを開けるた
めの手も届かない。

そのため誰が入ってきたのかの確認すらできない。



「え…と、私は、その……」



ベッドの向かいに来たその人はたじろぎながらもじもじしだした。



「…あれ、?」



どこかで見たことあるような…。







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