時の住人 | ナノ
明かされた秘密と決意

私と康太は服を探しに二階に来ていた。

先程隠れていた弟たちの部屋を通り過ぎ、突き当たりから二つ手前の部屋のドアを開けた。



「さぁ、入って。」



「…う、うん。」



部屋は暗く、明かりがないと足元すら見えない。

壁に設置されている電気のスイッチに手を翳し、オンにした。

パッと照らされた部屋に一歩ずつ足を踏み入れる。



「ちょっと待ってて。」



一番下の段のタンスの引き出しを開けて、康太たちが着られそうな服を探した。

サイズが大きくて可愛くないやつ…

高貴も呼んだ方がいいかも。



「ねぇ、康太。高貴呼んできてもらってもいい?」



「わかった。直ぐ呼んでくる。」





高貴を呼びに行ったら満知も一緒に来た。



「仲間外れにしないでよー。」



「ごめんごめん。」



満知はついて来たもののベッドに寝転がり、近くにあった雑誌を手に取りのんびりとしていた。



「高貴も服ないから何か探さなきゃ。」



「…何で満知は服あるの?」



高貴が疑問に思ったのかのんびりとしている満知を見ながら聞いた。

満知が応えようとしなかったため私が質問に応じた。



「私の貸したの。それに満知は何度か泊まりしてるから、下着類も常備してるしね。だから着替えがあるの。」



「「へー。」」



二人して気の抜けた返事をするもんだから少し笑えた。

…男子の下着はないんだけどどうすればいいかな?

弟のは小さくて履けないだろうからお父さんのでいいか。

お父さんのなら履けるだろう。

気を取り直して服を探し始めた。

スウェットでいいかな?

サイズは私が着ると少し大きいかなって思うようなサイズなんだけど…



「二人とも、スウェットでいい?」



タンスの中をあさりながら振り向かずに聞いた。



「いいも何も貸してくれるなら何でも…」

「スカートでも?」



私は冗談で高貴をかまった。



「…ごめん。前言撤回。スカートは嫌だ。」



「冗談だよ、真に受けないで。」



タンスの奥の方からスウェットを上下二着ずつ取り出した。

黒と濃いグレーのスウェット。



「どっちがどっち着る?サイズは両方一緒。」



綺麗に畳まれたそれを抱え、高貴と康太の前に立った。



「…どっちでもいいけど。」



私は“じゃあ。”と言って高貴に黒、康太に濃いグレーを渡した。



「ありがとう。」



「下着はお父さんのを貸すよ。」



「本当申し訳ない。」



「あ、ありがとう花奈。」



パタンと何かが閉じられる音がした。

音の先は満知で、読んでいた雑誌を閉じた音だった。



「さて、リビングに戻りますか?」



すたすたと歩きだした満知を追いかけて私たちも部屋を後にした。





階段を降りたところで康太と別れ、満知、高貴、私の三人でリビングに入った。

入った所直ぐで満知がUターンして私の所へ詰め寄った。

壁まで追い詰められて下から覗き込まれた。



「ちょ、何?!」



「何じゃないでしょ?後で話聞くからねって言ったでしょ?」



“言われてないよ!”と言ったが満知は“細かいことは気にするな。”と流されてしまった。

高貴はいまいちついてこれていない様子でぼけっと突っ立ていた。



「さぁ話しなさい。隠れてる間何があったのか。」



「うっ。…何もなかったって。」



満知は信じてくれているようには見えなくてとても恐い顔をしていた。

これはもう逃がしてくれる気配はこれっぽちもなかった。



「…な、何もなかったって。別に何かしてたわけじゃないし。」



満知と目を合わせずに話すと両手で頬を挟まれ顔を向けさせられた。

もの凄い力で挟まれていて痛い。

今喋るときっと面白い喋り方になる。



「花奈!…私に隠し事しないで?」



満知は目を潤ませ可愛く私を見上げた。

少し離れている所にいた高貴を瞬殺するその可愛らしい顔に私も負けた。



「…はなひまふ。」



喋りにくいためちゃんと発音できなかった。

さっきまで死んでいた高貴がクスクス笑っていたので鳩尾に一発喰らわせてやった。





腹を抱え蹲っている高貴をほっておいて、ソファに座って満知に話して聞かせた。



「弟たちの部屋の押し入れに隠れていました。」



「…それで?」



そんなことを聞きたいんじゃないと言わんばかりに話の先を聞いてきた。



「…真っ暗でした。」



私は気づかないうちに満知相手に敬語で話していた。

満知は言葉を挟まなかったけど目で先程と同じことを言われている気分になった。



「えっーと、思ったより狭くて、距離が近くて緊張した。」



そう、緊張…

…たぶんそれだけじゃないけど。

康太のこと男の人として見るようになったんだと思う。

だからなおさら緊張した。



「…それで何で野島のこと急に康太って呼ぶようになったの?」



満知が我慢できなくなったのか質問してきた。



「えーっと、康太が花奈って呼んでいいって聞いたからじゃあ私も康太って呼ぶねってことになった。」



「大体わかった。野島のくせにやるなぁ。」



満知は最後ボソッと何か呟いた。

聞き返そうかと思ったらさっきまで蹲っていた高貴が話に入ってきた。



「花奈って康太のこと好きなん?」



「「!?」」



高貴の一言にはっとした。

何か言わないと、と考えていた。

考えているうちに満知が高貴を少し離れたところに連れ去った。



「馬鹿高貴!見てればわかるでしょ。逆よ、逆!」



「え!じゃあ康太が花奈のこと好きなん?…確かに前康太に花奈のこと聞かれたわ。」



「でも花奈、野島のことふったのよ。」



「マジ!?」



…お二人さん、話し声丸ぎ声です。

小声で聞こえないように喋っているんだろうけど二人とも声が大きいから意味がない。



「ちょっとそこの夫婦。」



「「!」」



二人は一緒に振り返り声を合わせて突っ込んできた。



「「夫婦じゃない!」」



二人して頬を赤くしながら否定してるけど内心きっと喜んでるはず。



「こそこそ話丸ぎ声だからこっち来て話しなよ。」



二人は顔を赤くしたまま戻ってきた。



「何か言いたそうだね高貴。」



「…何でふったの?もしかしてまだすぐ…」

「風呂空いたよ。」



「!」



高貴の言葉を上手く遮って康太が現れた。

私たちは少し驚いてしまい行動が停止していた。

それを不思議に思ったのか康太は首を傾げた。



「…お、おう。次俺だ。」



高貴が言葉を発したことで我に返り行動を開始した。



「じゃ、じゃあ説明するから行こう。」



「お、おう。」



私と高貴は満知を置いてリビングを抜け出した。

風呂場について一通り説明し終えて、さっきの話の続きをした。



「…高貴と満知は知ってるだろうけど、ごめん。康太には…言わないでほしい。」



「花奈…」



「大丈夫、すぐ吹っ切れるよ。だからそれまで黙ってて?お願いします。」



さっき高貴が言いかけたのはきっとこうだ。

“まだ卓のこと忘れられないのか?”だと思う。

…きっと友達として卓のことを見ていてもどこかで卓のことが好きだったころを思い出している。

そんな状態で康太と付き合うわけにはいかない。

自分の感情を隠して嘘ついて、康太と付き合うなんて申し訳ない。

付き合うならちゃんと卓に対する好きという気持ちを消して康太を好きになって付き合いたい。

きっとこれは我が儘なんだ。

深く下げた頭を高貴はポカンと殴った。

痛くはなかった。



「頭上げろって。言わねーよ。これは康太と花奈の問題だろ?口なんかはさまねよ。でもまぁ助けてほしいときはいつでも言え!満知も俺も力になってやるから。」



なんか高貴が頼もしく見える。

高貴のくせに。

きっとメンタル面が弱ってるせいだ。



「おい、花奈。今もの凄く失礼なこと考えてたろ?せっかく俺がかっこいいこと言ったのに。」



「考えてないよ。ありがとう。あっそうだ、満知にもよろしくね。」



「おう。任せとけ!」







[*前] | [次#]


back to main
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -