想いは届く
「こっちだよ。」
「わ、わかった。」
私と野島くんは押し入れに隠れるために二階に来ていた。
「静かにね。」
野島くんは無言で二回頷いた。
それが何か面白くて、ツボに入りそうだった。
笑いを堪え、部屋に入った。
しっかりと戸を閉め、明かりを付けずに押し入れをゆっくり静かに開けた。
「下は埃っぽいから、上に入ろう。…先入って。」
「はい。」
狭いそこは冬用の掛け布団が入っているだけだった。
布団を少し奥に押してスペースを作った。
「閉めるよ。」
「うん。」
野島くんに引き上げてもらったあと、直ぐに戸を閉めた。
あ、明かり持って来るの忘れた。
「暗いね。」
「俺、携帯あるよ。」
野島くんが取り出した携帯から明かりが点された。
「「 ! 」」
思っていたのと大分違った。
高貴はと言うと、ソファに座って、満知を待っていた。
何故か考える人のポーズをとり、顰めっ面をしていた。
恐らく言い訳を考えているのだろう。
ガチャ。
リビングの扉が開いた。
「空いたよー。ってあれ?高貴だけ?花奈たちは?」
「…満知。」
満知は“ん?”と首を傾げた。
「話があるんだけど、今いいか。」
「え、い、いよ?」
(何だろう。まさか!)
満知は何かを悟ったのか、高貴の向かいに回り込んだ。
「…俺、満知の笑顔が好きだ。怒った顔も、泣きそうな顔も。全部好きだ。」
「うん…。」
(何か、恥ずかしい。)
満知はお風呂で赤く染まった頬を更に赤く染めた。
「今まで、勇気出せなくて言えなかったけど、今なら素直に言える。」
高貴は一息置いて、満知を真っ直ぐ見つめた。
「好きです。付き合ってくれ。」
満知は下を向き、ボソッと呟くように返した。
「…うん。やっと告ってくれた。」
「え?もう一回言って!」
聞き取れなかったのか高貴は聞き返した。
満知は顔をあげ、思いっきりの笑顔で高貴に抱き着いた。
「私も!私も高貴のこと好き!これからも宜しくね。」
高貴は嬉しさのあまり涙していた。
満知を強く抱きしめて。
「…そういえば、花奈たちは?」
少し前。
押し入れに隠れた私と野島くんは、気まずい空気を放っていた。
野島くんが携帯で明かりを点すと私たちの距離がやたらと近くてお互いに後退りをしていた。
そのまま、動かず、ジッとしている。
「…せ、狭いね。」
(ヤバい、高木さんいい匂いする。って俺は変態か!)
「うん、狭いね。…高貴、上手くやってるかな?」
「…どうだろ。ね、ねぇ高木さん?」
“ん?”と、暗い中、明かりを頼りに野島くんの方を向く。
「…名前で、呼んでもいい?」
声が、色っぽくて野島くんじゃないような気がした。
「うん、いいよ。」
焦りを隠し、目を反らし答えた。
すると携帯が閉じられ、明かりが消えた。
少し驚いてしまった。
「…か、か、花奈、さん…。」
(やっぱ、無理ー。)
「…じゃ、あ、私も名前で呼んでいい?」
自分だけ名字に君付けは何か嫌だ。
えっと、確か。
「こ、康太?」
ボスン。
何かが布団に勢いよく倒れ込む音が聞こえた。
それは野島くんによるものだった。
「ど、どうしたの?野島くん!」
「な、何でもない。」
(…それは反則でしょ。惚れた弱みに付け入るような…。)
どうしよう。
そんなに名前で呼ばれるの嫌だったのかな。
「名前で、呼んでいいよ?俺も花奈って呼ぶ、から。」
(てか、呼んでもらいたい。)
よかった、嫌じゃなかったみたい。
「うん、わかった。」
暫く携帯の明かりはなかった。
押し入れに入ってから、10分程は経っただろうか。
「高貴、ちゃんとやったかな。」
心配だ。
しくじってないかな。
「…リビングに戻る?風呂次俺だし。」
「そうだね。」
押し入れから出た私たちは静かに階段を下りていた。
リビングに近付くと男の泣き声が聞こえた。
「「…。」」
顔を見合わせ、“あれ、高貴?”、“そうなんじゃない?”といったジェスチャーも加えてアイコンタクトをとっていた。
リビングのドアに耳を寄せるとやはり高貴が号泣していた。
心配になった私たちはドアを思いっきり開けた。
「「どうした!高貴!……?」」
…目を疑った。
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