お話ってなんだろう。わざわざ引き止めるってことは大事なお話だよね。
そういうときってだいたいよくないお話だった気がするんだけど。き、気のせいだよねー…っ。
「……怒らへんで?」
「ほ、ほんと!?」
よかったあ…。ほっとしてため息をつくと、一緒に肩の力も抜けた。翔くん怒ると怖いもん。
「話はふたつあるんやけど」
「ふたつ?」
「せや。まずひとつめ。これはさっき諏佐にも話したんやけどな」
きょとん、としながらめがねの奥を見つめる。…ちょっと嬉しそう?
「キセキの世代、知っとるやろ」
「あー!あのカラフルな子たち?」
バスケはよく観るし、マネージャーをやっていれば当然直接試合を観に行くことも多い。
ひとつ年下の彼らのバスケは、すごいとしか言いようがなかった。ほんとに中学生なのか疑うところ。
「そっか、春から高校生!みんな同じとこなのかなあ」
「ちゃう。青峰はウチにくる」
「え」
あ、あの青色の子って、キセキの世代のエースだったよね!?
「な、なんで、ほんとに!?」
「練習は参加せんようやけどな」
「そうなの?それこそなんで?」
「強くなるから、やろ」
強くなるから、練習しないの?うーん、やっぱり天才って言われるだけあって、わたしには理解できない考えしてるなあ。
「それは、勝つ気あるの?」
「8割ぐらいはあるやろ」
「残りの2割は?」
「それは実物見て考えてみい」
あの天才集団でエースだったんだもん。間違いなく青くんはうちのエースになる。
だけど勝つ気のないエースなんていらないんだよ。勝たなきゃ意味がないんだもん。ほんとに大丈夫?
「ま、練習に参加せんでもあれは強いわ」
「若が怒りそう」
「わはは、想像できるわ」
若は熱血系だもんなあ。多分誰よりも怒る、短気だし!
さぼってていざ試合して、あっさり負けました〜なんて救えない。そうならないのであれば、まあ、わたしはいいかな。
「で、ふたつめや」
「…うん?」
「先にゆうとくけど、マジメな話や」
あれ、雰囲気変わった?自然と背筋が伸びる。さっきよりもっと大事な話?なんだろう。
「さよ、好きや」
「…え、うん。わたしも好きだよ?」
なんだ、そんなこと?それだったら今まで何回もやりとりしてきたし、たいしたことじゃない。翔くんから言うのは初めてな気がするけど。
さらりと言葉を返すと、翔くんはため息をついた。あれ、なんか間違えた?
「ちゃうねん。そういう意味やない」
「うん?」
幼なじみとして、以外に何かあったかなあ。
「だからさよは無防備っちゅーねん」
「なんの話!?」
「幼なじみや兄妹として以外の好意を除外しとるやろ」
むしろ、それ以外にあるの?
ぽんと頭に浮かんだのは、中学生のときのこと。でもあれって、わたしたちの間ではありえな、……。え?
「鈍すぎてかなわんわ。いい加減兄妹から卒業しい。それが許されとったのはせいぜい小学生までやわ」
「え、ま、待ってでもさっきは」
「言葉と本心が一緒と思わんほうがええで」
だ、え、だって。そんなこと突然言われても、わたしは、……。
ぴたりと思考が停止する。頭が真っ白。ただまばたきすることしかできない。
「もういっぺんゆうわ。好きや、さよ」
催花雨に願ったこと / 140505