「さよー。今日部活ないでしょ?甘いもの食べに行きたーい」
「今日は翔くんとバッシュ見に行くの、ごめんねっ」

 ぱんっと手をあわせて謝ると、お友達は小首をかしげた。

「ほんとに付き合ってないんだよね?」
「え、誰と誰が?」
「さよと今吉先輩が」
「付き合ってないよ!」

 そんなこと言ったら翔くんがかわいそうだよ!彼女できなくて泣くはめになる。わたしと翔くんは、いわゆる兄妹みたいなもの。
 昔はお兄ちゃんお兄ちゃんって後ろをついてったもんね。今、お兄ちゃん呼びすると嫌がられるけど!

「明日から春休みだけど、やっぱり部活三昧なわけ?」
「うんうん!」
「つまんなーい。たまには構ってね」
「え、暇があったらバスケ雑誌読む」
「こらっ」

 部屋に戻ったらやることやってさっさと寝ちゃうんだよね。疲れるんだもん。
 だから雑誌とか、テレビとか、なかなか見れずに溜まっていく一方。春休みになったら全部見れるかなあ。

「つーかてめぇ、今吉さん待たせんなよ」
「あれ、若聞いてたの?」
「聞こえたんだよ!」

 あ、そっか。隣の席だもんね。それで聞こえなかったら耳鼻科をすすめるレベル。

「若ってすぐ怒るよね。眉間のしわ、とれなくなるよ?」
「余計なお世話だ!さっさと行けコラ!」
「はぁい」

 1年生最後の学校なんだし、もうちょっとゆっくりさせてくれてもいいのに!翔くんだって多分のんびりしてるって。多分。
 ぱたぱたと小走りで下駄箱に向かう。あ、翔くん発見!

「おまたせしましたーっ?」
「待ってへんで」
「ならよかった!」

 ほら!翔くんだってのんびりしてたじゃん。若のばか。


- - -


 バッシュはいろんな種類があるから見ていて楽しい。
 きゅっとシューズのつま先を内側に曲げる。これは結構いい感じかなあ。

「久しぶりやなあ、花宮」

 翔くんの声がして、ぱっと振り返る。花宮、ということは。

「真くん!久しぶりー!最近電話したけど」
「チッ、なんでいるんだよ」
「バッシュ見についてきてもらったんや」

 真くんもバッシュ見にきたのかなあ。偶然!
 バッシュって寿命短いから大変だよね。3ヶ月に1回変えるひともいるみたいだし。大事に使ってもやっぱり消耗品だもんね。

「真くんのもついでに見ようか?」
「いらねーよ」
「サイズいくつだっけ」
「だからいらねーっつってんだろバァカ」

 むう。真くんって中学時代からそこらへんひとに触れさせないよね。見てればどのブランド使ってるとか、どういうのが好きとかわかるけど!

「…あれ、背伸びた?」
「当たり前だろ。相変わらずてめぇはチビだな」
「こ、これから伸びる」
「わけねーだろ。てめぇの成長期は終わってんだよ、バァカ」
「ひっどい!まだ可能性はあるもん!」

 せめて平均身長はほしいもんね。きっと伸びる、大丈夫。…服はぶかぶかなままだけど。伸びるからいいよね。

「あーうるせえ。てめぇはさっさと今吉さんとこ行け」
「うわっ翔くんいない!」

 きょろきょろ見渡しても見つからない。お、置いてくとかひどい…!!

「何しとるん」
「は、翔くんどこ行ってたの!?」

 あれ、その手に持ってる袋はなんだろ。もしかして。

「もう買ったの!?」
「ええのがあったからな」
「わ、わたしも一緒に選びたかったー…」
「そらすまんかったわ」

 頬をふくらませると、翔くんはわたしの頭をぽんぽんと撫でた。むう、仕方ないから許す。

「花宮、今度ちぃとばかし付き合うてや」
「はあ?嫌だね」
「つれへんなあ。まあええ、また連絡するわ」
「チッ」

 真くんって翔くんのこと、得意じゃないのかなあ。思い通りにいかないからかな。頭いいひと同士って付き合いにくそうだもんねー。

「さよ、行くで」
「はーい!真くんまたね!」

 手を振って翔くんのあとを追う。1年会ってないだけで、結構違って見えるもんだなあ。背高くなってたし、ちょっと大人っぽくなった気がする?
 わたしもちょっとは成長してるといいなあ!背は伸びてないけど!あー、甘いもの食べたい。


秘めた感情のるつぼ / 140429

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