たかたかと体育館を駆けまわる。モップがけも楽じゃない。だけどこれが今日ラストのお仕事!

「一番に教室飛びだしたと思ったら、モップがけが終わったあとに今吉さんと来やがって!何してたんだよてめぇは!」
「お説教うけてたのー…」

 足をとめてうなだれていると、若が渋い顔をした。うんうん、翔くんのお説教なんて想像したくないよね。お説教っていうか嫌味だけどね!

「何したんだよ…」
「テストの点数言っただけ…?あ、赤点は回避したから若には勝ってるよ」
「オレもギリギリ赤点じゃねーよ!」
「う、うそ…!!」

 てっきりわたしより下だと思ってたのに!これはまずい。若に負けたらおしまいだ。ってぐらい若の成績ってやばかった気がする。

「……英語以外だけど」
「あー!若ひっどい、嘘ついた!」
「全教科とは言ってねぇだろ!」
「屁理屈!」
「な、うるせぇよ!手動かせ!」
「それは若もじゃん!」

 ぷいっとそっぽを向いて、また体育館を走る。わたしは英語だって赤点逃れたもん!
 モップがけが終わったら道具入れに片付けて、倉庫の鍵を閉める。全員が体育館からでたのを確認して、こっちも鍵閉め。

 体育館前で待っている翔くんのもとに駆けよって、終わりましたの報告をする。

「お疲れさん。ほな鍵返しに行こか」
「はーい!」

 そういえば、いつも鍵を返すときについてきてくれるよね。ありがたいなあ。この時間になると廊下は真っ暗だし、正直だいぶ怖い。

「若松とさよが揃うと賑やかやなあ」
「そうかなー!」
「褒めてへんで」

 あげて落とされた!ぶすっとふくれていると、翔くんは笑いながらひどい顔やなぁと言った。その発言のほうがひどい!

「そういうの、傷つくんだからね!?」
「ははは、冗談や」
「う、わかってるもんっ」

 もちろん、わかってるけど!女の子的にはショックが大きいんだからね!翔くんのばか。

「よしよし、機嫌なおしてや」
「…翔くんって、とりあえず頭撫でておけばいいと思ってるとこない?」
「ばれてしもたわ」
「ほらー!!」

 ぺしっと手をはたくといかにも困ってますな顔をされた。けど、そういう顔のときはこっちの反応楽しんでるって、知ってるんだからね!

 鍵を職員室に返して、元きた道を戻る。ふたりぶんの足音だけが廊下に響く。や、やっぱ夜の学校怖いね…。
 つつ、と背中に何か這うような感覚がして、びくっと肩を震わせる。

「い、いま背中、っ!?」
「驚きすぎやろ」
「いいっ今の翔くん!?あーびっくりしたぁ…」

 本気でびびったー…!!まだ背中がぞわぞわしてる。
 けらけら笑っている翔くんを睨むと、またあの困り顔をした。だーかーら!それは通用しないんだからね!?

「いやーほんま、堪忍な〜」
「1ミリも思ってないでしょっ」
「おおっ、よう気付いた。鋭いなあ」
「もう!ばかにしないで!」

 何年の付き合いだと思ってるの!?それぐらい気付くもん。翔くんより賢くはないけど、でも、翔くんのことならいろいろ知ってるんだからね!


どんぐりの背くらべ / 140426

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