胸、とは。

 ただの脂肪の塊だし、走るのには邪魔だし、むしろ!ないほうが!便利!!青くんは男の子だったらみんな好き〜って言ってたけど、何がいいのか!理解できない!…泣いてない。

 歩くたびにきゅっきゅと体育館に音が響く。いつも通りモップをかけて、片付けして、鍵閉めておしまい。

「若は女の子と喋らないの?」
「は!?突然なんなんだよお前は」
「だって見たことないもん。わたし以外に女友達いないの?」
「余計なお世話だ!!」

 怒らなくたっていいのに!図星だったのかな。いいじゃんわたしはずっと友達だよー!ふふん。
 あんまり女の子と喋らない若は、きっと敵ではないはず。胸の大きい子とばかり喋ってたら、モップで頭殴るとこだったけど。

 モップを片付けて倉庫をでると、離れた場所に翔くんと桃ちゃんを見つけた。思わず止まる足。何を話しているんだろう。
 わたし、胸大きくないし。友達にまな板だって笑われるぐらいだし。そんなんだから、桃ちゃんには絶対勝てない。桃ちゃんはかわいい。女の子から見てもかわいい女の子。

 ぎゅう、胸のあたりを握りしめる。何これ、なんて表現したらいいんだろう。考えてみたけど、"気持ち悪い"が一番しっくりきた。そう思うとそれしか思えなくて、だんだん本当に気持ち悪くなってきた。気分だけ、じゃなくて。
 見たくない。見たくないの。でも気持ち悪くて動けない。

「コラ藍白!まだ片付け残ってんじゃねーか!」
「あ、わか、ごめんね」
「は……?お前があっさり謝るとか気持ち悪いぞ」
「ひっどい」

 若がきてから、少し楽になった気がする。息を吸って、吐く。まだやることがあるもんね。もうちょっとの辛抱。
 話が終わったのか桃ちゃんが戻ってきて、全部の片付けをすませて鍵を閉める。桃ちゃんの顔がまともに見れない。見たらまた、あの気持ち悪いのがやってくる気がする。

「なんや、顔色悪うない?」
「……べつに」

 放っといてほしい。気持ち悪くなるの、やだもん。翔くんと桃ちゃんが放っといてくれたら、多分楽だから。

「わたし!ちょっと寄りたいとこあるから先行く!ばいばいっ」

 返事を聞かないまま、小走りで寮とは逆方向の道を行く。だって一緒に帰りたくない。ちょっと気を紛らわせたい。コンビニ行こうかな、甘いものでも買っちゃおう。疲れてるし、いいよね、うん!
 イヤホンをしてコンビニに入る。飴、チョコ、クッキー、それともデザート系?何にしようかな。そんなたくさんはいらないから、小さいのがいいな。

 とんとんと肩を叩かれて、びくっとしながら振り返る。

「げ……」
「なんやその反応、傷つくわあ」
「思ってないくせに」
「そんなことあらへんで?」

 あーあ、なんで一番喋りたくないひとがくるかな。絶対思ってないし。一緒に帰りたくなくてコンビニ来たのに!翔くんならそれぐらいわかるでしょ、なんで来たの、もう!
 イヤホンはそのままに、100円のチョコを一袋持ってレジに向かう。さっさと買って帰ろ。

 コンビニをでてすぐ、イヤホンが外されて顔をあげる。あーもう!音量あげてたからついてきてるの気付かなかった!なんなのー!何しにコンビニ来たの!?買い物しなよ!

「顔色悪くて気になってみたら、えらい不機嫌やなあ」
「もー!放っといてってば!」

 だんだんいらいらしてきた!放っといてほしいの気付いてるよね!?翔くんが気付かないわけない。嫌がらせか、性格悪いなあ!知ってたけど!

「ワシなんかしたっけ」
「現在進行形でしてる!」
「話しかけとるだけやん、ひどいわぁ」
「もー!思ってないのわかってるから!!」

 思ったよりも大きな声がでてしまって、自分で自分にびっくりした。ああもうやだ、なんか泣きそうだし!でも泣くなんて悔しいから、ぎゅうっとスカートを握りしめる。今は耐えたいの。

「帰る!!翔くんは超ゆっくり歩いて帰ってね!!」

 そう言い捨てて、翔くんの表情を見ないまま全力で寮まで走った。


それが渦巻いていた / 140720

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -