「若、男の子って何が好きなの?」
「……は?」

 え、何そのリアクション。ぽかーんって感じ。口はちゃんと閉めようね?みっともないよ!

「もうすぐ翔くんの誕生日なんだよ、知ってた?」
「マジかよ!ああ、だから祝おうっつーことか」
「わたしがね!」
「部活巻き込むとかじゃねーのかよ」
「…え、若祝いたいの?」

 きょとん。若ってば翔くん好きだったの?祝いたいならみんなでーってのもいいけど、絶対ばれちゃうもんなあ。わたしひとりでも隠し続けるなんて無理だーって思うのに、それが増えたら余計に!
 いつもあの鋭さに頼ってたけど、今回ばかりは本気でいらないね。気付かなくていいからーってことには絶対気付くし、どうしよう…。

「困ったーー!!」
「うるせえよ!」
「若ほどではないかな!」
「ああ!?」

 うー、若使えない!ほんとにうるさいだけしか取り柄ないんじゃないの!?バスケ中もうるさいし、一体いつなら静かなの?

 ……静かな若とか超怖い。


- - -


「すーさー先輩っ」
「なんだ?」

 きょろきょろと周りを確認する。翔くんは監督さんとお話中でいないってわかってるけど、なんとなく!

「翔くんの好きなものってなんですかー?」
「…それは、藍白のほうがよく知っていると思うな」

 むう。諏佐先輩もあてにならないみたいだ。幼なじみだけどあんまりわかんないもんだなあ。食べ物の好みとか、好きなことはわかる。おっさんくさいけど。
 でも欲しいものってなんだろー?って考えると、ぜんっぜん思いつかない!今まで付き合ってきた年数はなんだったのかっていうレベルで思いつかない!

「うー…どうしましょう…」
「どうかしたのか?」
「えっとですね、」

 翔くんに聞かれたくない。すこし屈んでもらって、耳元でぼそりとつぶやく。

「翔くん、誕生日近いから」
「あー…そういえばそうだな」
「こう!知られるとめんどくさくなりそうなんで!内密に!」
「なーにが知られたらめんどうやって?」

 ぎゃあああ、でたーーー!!なんで!監督さん!話!もう終わったの!?もっと長引かせてよーー!!

「な、なんでもないよお疲れさまでしたああっ」
「あ」

 おそらく、今までで一番走るのがはやかった瞬間だった。


- - -


 やばい、何がやばいって今日は6月3日。つまり翔くんの誕生日なわけだ。結局何あげよーとかぜんっぜん決まらなかった!
 毎年何かあげてるわけじゃない。ていうかあげてない。メールでおめでとうって送ってそれだけなんだけど。

 だって、今年は。

「あああもうどうしよう桃ちゃんへるぷ」
「はい!?」

 猫の手も借りたい。桃ちゃんは女の子だけど、桃ちゃんぐらいかわいい子なら男の子にプレゼントぐらいしたことあるはずだ。
 翔くんが誕生日でプレゼント思いつかないどうしよう。そう小声で言うと、桃ちゃんは首をひねった。

「む、難しいですねー…」
「だよね!もういっそなんでも…って思ったけど、嫌いって言われたらやだもん」

 モップを道具入れに押し込みながらため息をつく。

「今更何か用意するって言っても遅いですし、抱きついちゃえばいいんじゃないですか?」
「…はああ!?」
「彼女にそうされて嫌がる彼氏なんていないと思いますし」
「どういうこと!?いろいろぶっとんでない!?」

 桃ちゃんって部活中はしっかりしてるのに、それ以外だとちょっと変だよね!?まさかそんなこと言われると思ってなかったよ!予想外すぎる!

「そ、そーゆーの以外でお願いしますううっ…!」
「そしたら今日はもう無理ですよね?」
「ああああ…」

 恥ずかしいからやだ。けど。それしかないよね、ほんとに!桃ちゃんのばか。なんてこと言ってくれちゃってんのー!

「でも、様子がおかしいことには気付いてますよ」
「…だよねえ」

 翔くんだもん。気付かないわけがない。あーあ、“幼なじみ”って何!全然使えない!わっかんないよー!

「賑やかやなあ」
「あ、キャプテン。お疲れさまです」
「お疲れさん。ちょっとソイツ貸してくれへん?」

 待って待って待って!?怖い!やだ!今置いてかないで!!
 必死で桃ちゃんに視線を送る。…今、笑った。もうだめだ。終わった。鋭いほうじゃない自覚はあるけど、この笑みは本能的に“終わった”と思った。

「はい。それじゃあ失礼しますね」
「すまんな」
「……」

 この後輩、あとでしばくしかない。許さない。わたしを置いてった罪は重いよ!今度お菓子ねだろう。決めた。

「なんや最近様子おかしない?ワシの目見て理由言ってみ」
「いやいや全然ふつー…」
「なら、目逸らす必要あらへんよな」

 ううう。普通だよ全然普通。だけど隠し事はしてたわけだから、ね?もういいかな、だって考えたって思いつかないもん!

「た、っ」
「…た?」
「誕生日!おめでとっ」

 ぎゅう、と勢いよく抱きつく。あー、そっか。部活後だもんね。汗のにおいがする。

「あー…これは予想してへんかったわ」
「!!」

 抱きしめかえされて、びくっと体が硬くなる。じ、自分からしておいて緊張してるとか、恥ずかしいとか、どういうことなのー!って感じだけど、だってだって…!
 どうしたらいいかわからないから、とりあえず腕の力をすこし強める。

「これ、桃井の入れ知恵やろ」
「なななななんでばれ」
「さよのことや、だいたい想像つくわ」

 …わたしは、わかんない。わかんなかった。それなのに翔くんはわかるって言うの?そんなの、ずるいなあ。
 男の子に何かあげた経験なんて全くない。だからどうしたらいいかわかんない。ケーキで喜んでた子ども時代と今は違うもん。

「…で、抱きつく、ゆうことはさよがプレゼントっちゅーことやろ?」
「え?」
「さぁてどうしたろ」
「…?わたし?」

 うーん?そんなの、わざわざプレゼントしなくても、ねえ。わたしは翔くんの彼女だもん。見上げると、こつんと額同士がくっつけられた。

「ま、理解できへんことはわかっとったけどな。しゃーないから今は見逃したるわ」
「……??」
「誕生日、すっかり忘れとったわ。おおきに」
「…!うんっ」

 言ってる意味はいまいちわからない。けど、こう言うってことはきっと喜んでもらえたんだと思う。何かあげなきゃーあげたいー!って思ってたけど、なんか、別にいっかな。
 桃ちゃんしばくつもりだったけど、翔くんに免じて許してあげよう!先輩は優しいからね!


大好きなきみに贈る / 140602

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