きつく縛られた手足は、どれだけ引っ張ってもほどける気配がない。あがけばあがくほど、縛られた部分が痛むだけ。

 目の前には。

「これ、手。嫌がらせですかあ」
「すまぬなァ、忘れておったわ。ヒヒッ」

 ずいぶん不気味な笑いかたをするものだ。まあ、縄をほどいてもらえればなんでもいいけれど。

「あっさりほどくんですねえ」
「ぬし程度なぞどうとでもできる」
「そうでしょうねえ、何もしませんけど」

 だってお腹がすいているんだもん。空腹感は頭の回転を鈍くさせる。もう死んでいるのだし餓死はないだろう。けれど、ぼんやり過ごすつもりもない。

「いただきます」

 …まずい。ご飯はだんぜん現代のほうが美味しいのに、なぜそこまで戦国なのか。黄泉って時代遅れの場所なんだなあ。はやいとこ現代に追いついてほしい。
 この時代なのだし雑炊はしかたないが、死んだ現代人から苦情はこないのかなあ。それともここ、地獄かな。地獄におちた人間は贅沢してはならない、とか。

「ぬしの口にはあわなんだか」
「いえ、そんなこと、ありません。全然。」

 食をおろそかにした罰かな、これ。食べ物を粗末にした覚えはないが、一人暮らしをはじめてからと言うものまともなものを食べていない。カップラーメンは素晴らしいと思う。

「ごちそうさまでした」

 もったいないからだされたものはきちんと食べる。いっそ贅沢は敵だと思っておけばやっていけるんじゃないかなあ。

「これはどこに片付ければよいのでしょう」
「ぬしはそこにおれ」

 やだなあ、こういう扱い。動き回るなということだろうねえ。家事系は苦手分野だからやらせてくれと言う気はないが。

「さて、ぬしには何ができる」
「何、とは」
「何もできぬ小娘をここに置いておく理由はなくてなァ」

 働かざるもの食うべからず、っていうやつかなあ。何と聞かれても、わたしにはこれしかない。

「薬をつくること、ですかね。薬草には詳しいほうかと」
「やれ、試しに作ってみよ」
「え」

 作らせてもらえるのならそれはもう大喜びで作る、けれど。

「作れぬと申すか」
「材料と道具がないことにはどうにもできません」
「そうよなァ」

 楽しそうだなあ、このひと。頭巾のせいで顔があまり見えないからか。いやそれだけじゃないかも。このひとの考えていることが読めない。

「よい言い訳を思いついたわ。我ながらよく頭がまわる…ヒヒッ」

 言い訳、とは。もしかしてここで使ってもらえるということかなあ。薬師ってこの時代だと重宝されていたよね。…薬師じゃないけれども。
 これが本当に死んだのではなく、タイムスリップだとしたら笑える。非科学的すぎる。そうなるとまず、わたしが現世で死んでいるのかを確かめたいなあ。無理だけど。

 足音が部屋に近づく。もうすこしおとなしく歩けばいいのに〜。

「形部、失礼する。用とは何だ」


(140318)


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