目を開けると、そこはきれいに整頓された和室だった。頭がずいぶんぼんやりしている。
 わたしって死んだんだっけ…。やはり屋上にはフェンスを設けるべきだと思う。それかちゃんと鍵をかけてね。わたしの死から学んでくれ。

 はあ、眠いなあ。もう一眠りしたいところだけど、座ったまま寝るのはちょっとなあ。布団があれば二度寝していたところだけれど、あいにくそれらしきものが見当たらない。
 動こうと思ったら、手足が縄で縛られていることに気がついた。さっき死んだばかりのひとにこの扱いはひどいよ〜。

 ぼんやりと天井を見つめる。なんだろう、正直言って死んだ実感わかないねえ。普通に眠いし、ちょっとおなかすいてるし、突然死んだひとってそういう感覚なのかなあ。

「む、目覚めおったか」

 戸を引く音に反射的に視線を向けると、現れたのは白い頭巾に着物姿のひと。誰だろう、黄泉の案内人か何かかなあ。

「おはようございます。あの、ここはどこですか」

 黄泉であってるのかなあ、宗教信仰してないけど〜。

「佐和山城よ、サワヤマジョウ」
「……え」

 そうなんですか〜と流せない場所がでてきてしまった。黄泉は昔の日本をイメージしていたりするの?黄泉だって証拠は全くないけれども、死んだ人間の行き着く先は黄泉なんじゃないのかな。

「考えこんでいるところ悪いが、ぬしの名は何と申す」
「…人に名前を聞くときは、自分から名乗ったほうが良いと思いますが」
「ヒヒッ、そうよなァ、失礼シツレイ」

 全く失礼と思っていないくせに。名前を聞き出したくてああ言ってみたけれど、不機嫌になってもおかしくない言葉だよね。死ぬことより怖いことはないけれど。

「われは大谷吉継、さて、ぬしは」
「氷見菜々と申します」
「菜々、か」

 ますますよくわからない。大谷吉継は戦国時代の武将だ。佐和山城といい、ここは戦国時代?黄泉は戦国時代をモチーフにしているの?
 それか、死んだのではなくタイムスリップしたか。実際死んだわ〜って感覚はしなかった。地面にぶつかった記憶もない。見れるかわからないが自分の死体も見ていない。
 でも、屋上から落ちたら普通死ぬよね。

「ぬしは変わったものを着ておるよなァ、どこの者だ?」
「どこ、と申されましてもお答えいたしかねます」

 仮に戦国時代であれば、地名を述べたところでわからないだろう。面倒だなあ。ここが黄泉だと証明できれば不自由しないというのに。もっとわかりやすく閻魔様とか置いてほしいね。

「ならば、ぬしはまことに人か」
「はい」
「空から降ってくる人なぞ見たことはないのだがなァ」

 わたし空から降ってきたのか。それは疑われても無理はないね。だってありえない。

「ぬしは白い尾をひく星から降ってきた。不吉よな」
「…そうですね」

 白い尾をひく星、か。わたしの見た彗星と関係はあるのかな。彗星が鍵とか。だいたい彗星のせいで落ちたようなものだ。昔は不吉と言われていたらしいけど、現代でも不吉じゃないか。汚れた雪玉が塵などを纏っているだけではなかったの?

 考えこんでいると、小さく鳴る腹の虫。

「おなかすいた〜…」
「ヒヒッ、腹がへるならぬしはまことに人であろ」

 動物ならお腹はへると思うけどねえ。このひとはわたしを、ひとの形をした何だと思っていたのだろう。まあ、どうでもいいか〜。


(140227)


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