褒められると嬉しい。誰かに認めてもらえると嬉しい。自分の単純さにすこし呆れるけれど、でもひととして正常な反応だと思う。そりゃあ過剰なまでに褒められたら気が引けてしまうけれど、あの程度なら誰だって喜ぶのではないかな。
 氷室さんって、ひとが欲しいと思っている言葉をかけるのが上手なのかな。いや、そういうとなんだか氷室さんの言葉をお世辞として受け取っているように聞こえるけれど、ちゃんとそのまま受け取っているつもり。

 つもり、というのは疑いがすこし含まれているから。きっと氷室さんは誰にでもああなんだろうなあって。そう思うだけだ。


 いつもみたいに自分の席で音楽を聴いていると、突如はいるノイズ音。え、ちょっと待って。ちょっと、待って。

「こ、壊れた…?」

 どうしよう、待って、お願いだから待って。どっちが壊れたの?ヘッドホン?プレイヤー?どちらにしろ勘弁してほしい。
 最近持ち歩くようになったイヤホンにつけかえてもう一度再生すると、やはりノイズは消えない。…これ、使いだして何年目だっけ。ため息をつきながらイヤホンもヘッドホンもプレイヤーも全部かばんにしまいこむ。

 ほんとうに、どうしよう。まだ1時間目が終わったばかりなのに…。


- - -



「ヘッドホンをしていないなんて珍しいなあと思ったけど、そういうことだったんだね」
「どうしましょう、もうしばらく学校休みます…」
「新しいものを買うまで、かわりに携帯に音楽をいれるのはどうかな」
「…!それがありました!」

 どうして思いつかなかったんだろう。携帯、その手があった。容量がたりなくなりそうだし、今とくに好きな曲だけをいれておこう。とりあえずそれでしのいでおいて、週末に新しいプレイヤーを買いにいけばいい。

「ありがとうございます、助かりました」
「でも、しばらくヘッドホンなしの生活っていうのもいいんじゃないかな」
「…それは…でも…」
「甘露ちゃんと屋上以外でも話したいな」
「う、」
「せっかく同じクラスなんだし、どうかな?」

 ヘッドホン。音楽。わたしの世界。だってこれがないと、これがないと、わたしはひとりぼっちなんだなあって自覚させられるから。周りは賑やかにしているのにわたしはこの空間で静かにひとりぼっち。
 音楽を聴いていたら、閉ざしていたら、ひとりぼっちなんて感覚はなくなる。だってそこにはもともとわたししかいないから。

「いつかは、頑張ります。でも…まだ、ごめんなさい」
「ううん、気にしないで」

 あ、そうだ。いいことを思いついたと言わんばかりの表情で氷室さんが口を開く。

「プレイヤーはいつ買いにいくんだい」
「週末に行こうかなあ、と」
「ならオレも一緒に行っていいかな」
「へ…!?」

 ちょっと待って、予想外の展開に思考がついていかない。えっと?つまり、氷室さんと一緒に、週末、プレイヤーを、買いに…?

「……、いや、む…りじゃないですけどほら…氷室さん、忙しいでしょう?」
「日曜なら部活はないし、礼拝が終わったあとなら空いてるよ」
「じゃあ土曜日に行くので…」
「オレと一緒は嫌だった?」
「いい、嫌じゃないです、でもほら、お友達と遊ぶのって大事だと思うんです。ね、氷室さん、貴重な休みはお友達のために使いましょう」
「なら甘露ちゃんも友達だから、いいよね?貴重な休みを使っても」

 …あれ?もしかして自滅、ですかね?
 でもこれってこれ以上何か言うと必死すぎて嫌われちゃうのかな。だってどう考えても断る理由を探してるっていうふうに聞こえると思うし、実際そうだし。あんまりくどいと気分を悪くさせてしまうかも…。
 氷室さんが嫌というわけではなく、その…。

「それに、日本に戻ってきたばかりでここのことを全然知らないから教えてほしいんだ」
「…わ、わかりました…」
「うん、ありがとう。じゃあ日曜日の午後、あけておいて」

 なぜ、なぜこんなことになってしまったのでしょう。わたし、お父さん以外の男のひとと買い物なんて今まで一度もしたことがないのだけれど…!
 それなのにクラスで、いや学年で?もしかしたら学校で、かもしれない。かっこいいと言われてる男のひとと一緒に、とか、多方面から恨まれそうだし殺されそう。
 クラスのひとに見られないといい、のだけれど。もう二度とあんな目にはあいたくない。絶対に、嫌だ。でも縁は切ろうと思って切れるものではないし、そもそもわたしに自分から切る勇気なんて一切ない。ああ、もう、どうしたらいいのでしょう。かみさま、助けてください。

(君の運命に溶ける)


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