先生曰くわたしは頼みごとをしやすいらしく、資料運んでおいてとかこれ手伝ってとか頼まれることが多い。頼まれるというか、頼られることは全然嫌いじゃないし、むしろ嬉しいのだけれど。
 ちょっと重いなあ。次の授業の準備があるから資料を図書館に返却してきてほしいと頼まれ、山積みになった分厚い本を運ぶ。わたしの悪いクセというか、大丈夫?と聞かれるとつい大丈夫ですと言ってしまうのだ。というか、それって大丈夫です以外の選択肢があるのだろうか。断れる勇気がほしいところ。
 無理っていうほどでもないけれどやっぱりすこし重い。一般的な女の子はこれぐらい軽々もてたりするのだろうか。運動苦手だし、非力だし、わたしがだめなだけかも…。

「甘露ちゃん」
「わ、っ…。氷室さん」

 突然後ろから声をかけられて、びっくりしてふらついてしまった。あぶない、あぶない。本を落としてもし何かあったりしたら大変なことになるし…。
 彼はわたしの名前を呼んですぐ、持っている本の半分以上を奪っていった。

「え、だ、大丈夫です!あの!」
「だいぶふらついていたようだけど」
「そ、それはあの、突然声をかけられた、ので…」

 必死の言い訳もむなしく、氷室さんはにこりと笑いながら図書館だよね、と先を歩いた。大丈夫ですと言いながら後ろをついていくけれど、完全に聞く耳をもっていないらしい。ありがたいとは思うけれど、申し訳なさのほうが勝ってしまう。

「重い本を持ちながらふらふら歩いてひとの邪魔になるほうが迷惑だよ」
「う…ごめんなさい…」
「うん。オレはこれを迷惑だと思ってないから気にしなくていいよ」

 正論すぎて何も言い返せない。申し訳ないけれどここは甘えることにしよう。氷室さんは編入から数週間たった今でも相変わらずクラスの人気者で、もうわたしのことなんか興味がなくなってもいい頃なのにこっちも相変わらず話しかけてくれる。教室で話すことは全くないけれど、お昼休みにそこそこの頻度で屋上にくるからすこしだけ話す。
 …正直、ちょっとだけ居心地が悪い。いつもひとりでいることが普通だったから、突然ひとが入ってくるとどうしたらいいのかわからない。わたしと話したってなんのメリットもないのに。
 ぼんやり考えごとをしながら歩く。ふと気がつくと図書館についていた。どさりと本を置きちいさくため息をつく。

「先生も女の子にこれを頼むなんてひどいな」
「や、安請け合いしてしまったわたしが悪いんですっ…!先生は悪くありません!」

 氷室さんは何度かまばたきをした後、ちいさくため息をついた。どうしよう、気を悪くさせてしまっただろうか。で、でもなにも間違ったことは言っていないと思うし、どうしたらいいのだろう…。

「先生になにか頼まれると断りづらいだろうから、甘露ちゃんはもっとひとを頼ったほうがいいんじゃないかな」
「で、でも」
「さっき言ったよね、オレは迷惑だと思ってないって」

 頼ったほうがいいって言われて、も。今日は特別量が多くて重かっただけで普段はなんてことないし、今日だって別に頑張れば運べたし、いや、そうじゃなくて。そうじゃなくて…もっと別に言うことがあるはずだ。

「ひとを頼るとか甘えるとか、悪いことじゃないから申し訳ないって思わなくていいんだよ」
「…それは、理解できるんですけど、……」

 理解はできるけれど、それでもやはり不安がつきまとう。これを言って相手の気を悪くさせてしまったらどうしよう。頼って、甘えて拒否されてしまったらどうしよう。鬱陶しいって思われたらどうしよう。…自分が傷つきたくないだけ、わかっている。
 すこし冷静にならなければ。軽く深呼吸して、今一番言わなければならないことを頭に思い浮かべる。

「…あの、ほんとうは、すこし重かったです。だから、ありがとう…ございます」
「うん。こちらこそ、ちょっとお節介だったかな」
「や、そんなことないです…!とても助かりましたっ」

 全力でぺこぺこしていると、頭上から氷室さんの笑い声が聞こえた。き、気のせいじゃないと思うのだけれど、何かするたびに笑われている気がする…!氷室さんの笑いのツボがほんとうにわからない。わたしのすることのなにが面白いのだろう。

「さて、あまり長居をするとお昼が食べられなくなってしまうな」
「あ…!ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。甘露ちゃんは今日も屋上なのかい」

 頷くと、氷室さんがあとからオレも行こうかなとつぶやく。屋上が好きなのか、それともわたしと話すためなのか、どちらなのだろう。…後者はちょっと自意識過剰すぎるかな。もうすこしいい言い方が思いつけばいいのだけれど、いかんせん語彙力がない。

「あ、あのお友達が教室で待っていると思いますよ…?」
「…そうかもね。じゃあオレは教室に戻ろうかな」

 ほんの一瞬だけ切なそうな顔をしたと思ったら、ぱっといつも通りの笑顔に戻る。今のはわたしの見間違いだったのだろうか。うまく言葉に表せないもやもやを抱えたまま、氷室さんとわかれた。

(やさしいから世界なの)


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