うちの学校は学食が美味しいと評判らしいから、基本的に学食に行くひとが多い。教室はお弁当をもってきているひとがちらほらいるけれど、わざわざ屋上まできて食べようというひとはすくない。
 つまり、屋上はほとんどひとがいない。だからわたしは毎日お昼になるとここにきていた。それで、わたしは、人気のないここでいつも通りぼんやり空を眺めながらお昼をすますはずだったのだ。

「屋上ってもっと人気のある場所だと思ってたけど、そうでもないんだね」
「……まあ、学食のほうが人気ですし」
「なるほどね」

 なんで氷室さんがここにいるんだろう。編入生だしもっとこう、クラスのひとに捕まっているものだと思っていたのだけれど。だれかが追いかけてくる気配もなくほんとうに静かで、…よくわからないなあ。

「甘露ちゃんはいつもここなのかい」
「あ、はい、そうです。静かなので」
「静かな場所が好きなんだ」
「…はい」

 教室はいろんなひとたちの会話で溢れかえっているし、聞いていたくない。学食なんてもってのほかだ。ひとの多さに酔ってしまいそうになる。

「お昼、一緒にしてもいいかな」
「……どうぞ」
「ありがとう」

 はい以外の選択肢なんて用意されていないんじゃないの、ということは言わずに黙っておいた。ここで拒否したらそれはそれですごい気がする。わざわざ屋上まできているのだし、それで断ったら気を悪くさせてしまうに違いない。たまたま居合わせたにすぎないと思うのだけれど、拒否できるほどわたしは気の強い人間ではない。

「すこし疲れちゃったんだ」
「…え?」
「編入してきたばかりだからさ、いろんなひとが話しかけてくれるのはありがたいが、質問攻めで疲れちゃって逃げてきたんだ」

 …そうですか、そうつぶやきサンドイッチをかじる。逃げてきた場所が屋上、って。まあ間違った選択肢ではないけれど、よく何事もなくこれたものだ。追いかけられるとか、こっそり後つけられるとか、そういうことがあってもおかしくはなさそうなのに。
 だって、氷室さんはきれいなひとだから一緒にご飯食べたいなあって女の子がたくさんいそうなのに。編入生は男の子だ、っていうことで男の子も興味津々なのかもしれない。仲良くしたい、って。

「質問につきあっていれば、そのうち飽きて終わるんじゃないんですか」
「…そうかもね、でもオレは甘露ちゃんと話してみたくて」
「わ、わたしと話すより質問攻めにあうほうが楽しいですよ」

 そう言うと、氷室さんはしばらくぽかんとしたあとふっと笑いだした。…いや、待って、わたしはなにも面白いことを言ったつもりはない。なんでそんなに楽しそうなんですか。

「いや、うん、オレはキミと話しているほうが楽しいよ」
「ぜ、全然褒められている気がしません…」
「ふふ、素直に受け取ってほしいな」

 ばかにされている気しかしないけど、返事をしないと無視になってしまう気がしてとりあえずありがとうございますと言っておく。ほんとうに、なにが楽しいんだろう。

「甘露ちゃんはずかずか入りこんでこないよね」
「…まあ、わたしそういうの苦手なので…」
「だから話していて安心するんだ」

 ひとの心に土足で踏み込むのは、というか深入りするのは苦手だ。深入りすればするほどなにかあったときのショックが大きくなっていく。嫌われたくないのなら好かなければいいし、浅い付き合いでとどめておくほうが傷も少なくてすむ。単純な話だ。興味のない人間に嫌われることより、好きな人間に嫌われるほうがずっと、怖いこと。
 氷室さんがどういう性格で、どういう人付き合いを好むのかは知らないけれど。わたしと話していて安心するというのは、言われた側としても悪くないかも、と思う。

「またお昼、一緒にしてもいいかな」
「…氷室さんがいいのなら、どうぞ」
「ありがとう」

 ひとが、嫌われるのが怖くて自ら避けていたくせに、こうしてひとと話すと楽しいと感じてしまう。逃げている自覚はあるし弱い自覚もあるけれど、ほんとうに、うまくいかないものだな。

(揺れてヒカリを辿る)


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