もうすぐ雪が降るのかな。そんな、灰色の空をしていた。
 相変わらず屋上でひとり、ぼんやり昼食をとる。最近、すこしおかしい。氷室さんと一緒にいると落ち着かない。前とは違う、居心地が悪いのではないのだけれど、でも、そわそわする。昼食をとる場所を変えようかな、と思う程度には。

 がちゃん、扉の開く音に肩を揺らす。心臓の音がはやくなるのがわかる。なんなんでしょう、これ。ひとりでいるときは、こんなふうにならないのに。

「……こ、こんにちは」
「こんにちは」

 はあ、と小さく息を吐く。落ち着かない。氷室さんと話していたい気もするけれど、ここから逃げ出したいという矛盾した思いもある。
 食べ終わっていないお弁当箱を手早く片付け、立ち上がる。話したいけど、話せる気がしない。目を合わせられないもの。隣にいることだってできない。

「し、失礼しますっ」
「え」

 ごめんなさいと小さくつぶやき、足早に屋上からでていく。変です、とても、変。こんなこと、一度だってなかったのに。
 変な子だって思われたかもしれない。気分を悪くさせてしまったかもしれない。それでも、逃げださずにはいられなかった。それは、どうしてなんだろう?


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 どうして、って。追いかけて理由を聞けばよかったんだろうか。でも、そんなの迷惑をかけるだけだな。逃げられるということは、それ相応のことをしてしまったんだろう。

 自分が気付いていなくても、気付かず傷つけてしまうことはある。それなら謝らないといけない。でも、それすら嫌だったとしたら。謝るという行為はオレの自己満足になりはてる。

 なんとなく距離をとられているのはわかっていた。なら、このまま離れるのが最善なのかもしれない。

 空は灰色に染まっている。吹く風が冷たい。寒いけど、その場を動く気になれなかった。落ち込んでる、ってことなのかな。

 余計なお世話だったのかもしれない。楽しそうにしてくれていたと思ったんだけど、それはオレの勘違いだという可能性はゼロじゃない。

「……うまくいかないな」

 最善がわかっているのなら、それを選択すればいいだけなのに。あっさり選べないところが面倒だ。我ながら女々しい。

 側にいてほしい、って。そんなの、オレのエゴでしかないのにな。


(痛みも飲んだ)


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