頭が痛い。
梅雨になると毎年これなんだよね。痛み止めを飲んでもあんまり効かないし、正直1年のうち一番ゆううつな時期だ。6月は祝日がないし…ってこれは全然関係ないけど。
「やえち〜ん」
「む…なーに」
はあ、頭痛い。いつも通りの声だって頭に響いてうるさく感じていらいらする。こっちが勝手にいらいらしてるだけだから、相手にしてみれば迷惑な話だけど。
だから頑張って隠したいんだけど、なかなか難しいよねえ。
「な〜んか怒ってるー?」
「あー…いや、そうじゃなくて、何もないから、大丈夫」
へらりと笑って、とまっていた教室掃除の続きをする。
この時期の掃除ってほんと嫌。机運びなんて動くたびに頭が痛む。騒ぎながら掃除している女の子の声が頭に響く。どうにかならないかなあ、これ。
「やえちゃーん!ゴミ捨て頼める?」
「うんー、わかった」
そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえてるよ…。
今日は一段とひどいかもしれない。いつもはここまでいらいらしないし、音だって響かないと思うんだけど。はあ…。
ゴミ箱、ひとつにまとめられないかな。ふたつ持つの嫌だ。
「やえちんはそっち持ってー」
「…え」
「ほら、めんどくせーからさっさと行こー」
手伝ってくれる、のかな。いつもならそれぐらいって言うところだけど、今はすごくありがたい。さっきから紫原くんに気を遣わせてしまっているなあ。申し訳ないけど、体調悪いし甘えさせてもらおうかな。
普段何も思わずにのぼりおりしている階段も、今はずっと辛く感じる。
「やえちんさー、体調悪いっしょー」
「いやー…」
「青い顔で何言ってもムダだし。ムダなガマンしてんじゃねーよ」
そ、そんな顔にでてるのかな。とことん申し訳ないなあ。…あれ、これって言いかたはきついけど心配してくれてるとか、そういう?1回そう思うとそうにしか思えなくなってきた。
いつの間にかゴミ捨て場についていたみたいだ。空のゴミ箱を渡されたので、自分の持っているほうと交換する。
「あのさあ」
「ん」
「心配してくれたんだよね、ありがと」
「してねーし、やえちんがうざかっただけだし」
「そっかあ」
やっぱり心配してくれてたんだなあ。俯いてたらわからなかった。ちょっと気分も晴れたかも。相変わらず頭痛はひどいけど、さっきほどいらいらはしない。心配されるって、嬉しいことだよね。
「ありがとね、紫原くん」
「だから心配とかしてねーし」
「あは、違う違う、ゴミ捨て手伝ってくれたから」
違わないけど。こうしないと素直に受け取ってくれなさそうだもん。
「梅雨、はやく明けないかなあ」
「オレも思ったー、ちょっとうっとうしいし」
「じめじめするもんね」
ちゃんと見ると紫原くんの髪が湿気でぼさぼさしている感じがする。頭痛いとつい俯きがちになってしまうから気がつかなかった。はねたりもするし、梅雨はほんとに大変なことばかりだ。
空は分厚い雲で覆われていて、まだまだ雨が止む様子はない。今日はちょっと紫原くんが優しかったから、…今日だけは梅雨も許す。頭痛は許さないけど。
( 露けき時節 / 131104 )