むっくんの部活が終わる頃には、外は真っ暗になっていた。道を照らしてくれる街灯も、こんな田舎じゃ数が少なくてちょっとだけ怖い。もう少し増やしてくれればいいのにな、と思うけど、明かりが消えてないだけいいのかなとも思う。…ちかちかしてる街灯、よくあるもんね。
今日はまた一段と寒くて、ずっと曇り空だった。11月も半ばになるし、そろそろ雪の季節かな。
「さっみー……」
「今日は結構厚着だよね」
「寒すぎるし…」
むっくんはポケットに手をつっこんで、ぷるぷると震えていた。東京がどれだけ暖かいのかはわからないけど、きっとこっちよりは気温が高いよね。雪だって、きっとこっちほど積もらないだろうし。
「今からそれだと、冬越せるか心配になるなあ」
「もっと寒くなるとかありえねーし…」
ふふ、と笑うと白い息がもれた。息が白くなるのがおもしろいのか、むっくんは何度か息を大きくはいていた。
「あはは、それ楽しい?」
「別に〜。ちょっとやってみただけだし」
「あと数週間もすれば慣れるよ」
「ふーん…」
こっちでは日常だし、白い息に何の感情も抱かない。東京では息が白くなることも少ないのかな。ちょっと羨ましいかも。
ふわり、白い何かが舞った。それをキッカケにさらに白が降りてくる。…雪、だ。
「初雪、だねー」
「は、もう雪とかはやすぎるし、さむー!」
「そう?いつもこれぐらいな気がするけど」
「こっちはもっとおせーし」
むすっとしたと思いきや、今度はきらきらした目で空を眺めはじめるものだから、つい笑ってしまった。不愉快だと言わんばかりの目に、ごめんごめんと謝る。
「雪、そんなに嬉しい?」
「そういうわけじゃねーし」
「珍しい?」
「それはあるかも〜。あんま降らねーし」
そっかあと頷き、空を見上げる。わたしにとっては見慣れたものだし、むしろ雪が降るとうんざりする。雪かき、面倒だからしたくないなあ…。
「やっぱかまくらとか作るの〜?」
「わたしは作らないけど、そういう行事はあるよ」
「ふーん」
子どもの頃は作ったっけ。ほとんどお父さんに任せっきりだった気がするけど。結構暖かいんだよね、あの中で温かいものを飲むのが好きだった。
「それっていつやんの?」
「確か2月かな。雪像とかもあるよ」
「へー…」
あ、行きたいんだ。でも、行きたいの?って聞いたところで「別に〜」とか、そんな返事が返ってくるんだろうなあ。ほんと、素直じゃないね。
「久しぶりに行きたいなあ。どう?」
「やえちんが行きたいなら行ってもー…あ、部活」
「あー、バスケ部はほとんど休みないもんね」
「ん」
残念!そしたらお父さんに頼んで連れていってもらおうかな。写真撮ってこよう。…それはそれで、恨まれそうな気がする。むしろうちの近くにかまくら作ったほうがいいのかな。
「さみー、やえちん、コンビニ行こ」
「肉まん!」
「お菓子〜」
「え、それ寒いのと関係ある?」
「あるし」
コンビニで温かいお菓子が売ってた覚えないけど!ま、まあ、食べたら暖かくなるというやつなのかな。多分そうなんだろう。
毎年変わりなく降る雪が、今日は少しきれいに見えた気がした。
( 真白のおと / 140701 )