さすがに量が尋常じゃない。夏休み後から今までのノートを全部丸写しって、精神的にも身体的にもきつい。
 数Aは数Aでノートをわけておいてよかった。前期と一緒にしてたらわりと泣きたくなる。…いや、これも十分泣きたいけど。

 こうして図書館でノートを写しはじめてどれだけ経ったんだろう。疲れた。
 正面にいるむっくんに、“飽きた〜”と書いたメモを渡す。はあ?と言いたげな顔をされて、なかなかダメージが大きい。

 いやだって、ね?苦手な数学だよ。苦手。苦手なものほど集中力が続かない。
 あーこれも全部あの子たちのせいだ。直接怒りはしないけど、心のなかで怒鳴るぐらいは許してほしい。

 …ぎゃ、これ意味わかんない。式と答えはあるけど、どうしてこうなったの?
 “わからないから教えて”と書いたメモを渡してむっくんをじっと見つめると、やっぱり嫌そうな顔をした。うう、邪魔してごめんね。

 ノートをむっくんが見やすい向きに変えて、わからない場所を指す。

「…マジでコレわかんねーの?」

 小声でつぶやかれたそれにこくこくと頷く。うう、そんなに呆れるようなことかな。数学難しいんだもん。

「因数分解なんて簡単じゃん」
「…はあ」

 わたしにとっては難しいんだもん。複雑な因数分解をさらっと理解できるほうがすごい。

「んっとねー」
「うん」

 さっき渡したメモの裏に、むっくんがわかりやすくやり方を書いてくれる。ああ、なるほど!こういうやり方なんだねー。

「ありがと」
「ん」

 よしよし。これでもうちょっと因数分解と仲良くなれるかもしれない。わからなくなったら、むっくんが説明してくれたみたいに書いてみよう。


- - -


 ひたすらノートを写しつつ復習をしていると、むっくんからメモがきた。
 “お昼だし休憩しよ〜”…?お昼?携帯を見るととっくに12時をすぎていた。全然気付かなかったなあ。…う、お昼だってわかったらお腹すいてきた。
 ひたすら数字と戦っていたし、結構疲れたー!まだ約2時間半しかたってないんだけどね。

 片付けをはじめると、同時にむっくんも片付けはじめた。待ってくれてたのかな。お腹すいたよね、ごめんねー。

 図書館をでてすぐ、むっくんは大きなため息をついた。

「やえちん集中しすぎだし…。マジお腹すいた〜」
「ごめんごめん。もっとはやく言ってくれればよかったのに」
「集中してたし」

 適当なベンチを見つけて腰掛ける。さすがに肌寒いなあ。

「もしかして気を遣わせちゃった?」
「遣うわけないじゃん」
「そう?」

 まあ、そう言うならそれならいいけど。話しながら、ひざのうえにお弁当をひろげる。

「お弁当のおかず何〜?」
「昨日の晩ご飯の残りがメインかなあ」

 むっくんは相変わらず菓子パンが好きなんだねー。このひとってお菓子というか、甘いものというか。それ系を食べてないときってあるのかなあ。授業中とか、部活中とか以外で。
 食べ進めていると、じっとお弁当に視線が向けられていることに気がついた。…慣れっこだけどね、こういうの!

「何かいる?」
「卵焼きちょうだい〜」
「はい」

 箸を差し出すと、むっくんはちげーしと首を振った。箸いらないってこと?

「あーんして〜」
「う、ん!?」
「前は普通にしてくれたじゃん」
「そっそそそうだっけ…!?」

 そっそんなことしたっけ!?し、…したわ…。お祭りより前のわたしを恨むしかない。今となっては平然とあんなことができたことにびっくりだ。無理。

「だめー?」
「……」

 その!ちょっと首をかしげつつ言うの!やめてほしい!それであっさり折れてしまうわたしもわたしだよね。でも仕方ないと思う…。

「……ど、ぞ」
「ん、ありがと〜」

 あああもうほんとに頑張った。今日一番頑張った。数学以上に頑張った…!?
 むっくんは卵焼きを食べながらすこし首をかしげた。あれ、まずかったかなあ。

「だし巻きじゃん」
「うん、だし巻きのほうが好きだもん」
「えー、オレ甘いやつのが好き〜」

 ですよねー!ってことはまずいわけじゃなかったのかな。甘い卵焼きを期待して食べたらだし巻きで残念だった、とか?…それはそれでもやっとする。ひとのものもらっておいてそれはない。

「甘いやつ作ろうよ〜」
「わたしはだし巻き派なの」

 だし巻き卵おいしいもん。…でも、むっくんはお砂糖いれた卵焼きが好きなんだよね。

「お返しにひとくちあげるー」
「え、いや、いいよ」

 はい、とパンを差し出されたけど、手で制する。いやだって、それって、

「間接キスだからだめなの?」
「!?」
「普通にキスしたことあるしいいじゃんー」
「だっ、そっそういう問題じゃないの!」
「ふーん?」

 何を!何をさらっと言ってるかなあああもう!
 恥ずかしくて顔があげられなくて、ひたすら自分のお弁当箱を見つめる。ああもう、もう、ばか!

「やえちんって意識しなければそういうことできるんだね〜」
「へ、」
「これだって前は普通にしてたじゃん」
「そそそそそれはですね……」

 うう、実際そうなんだろうなあ。確かに、あのときは恥ずかしい〜とかなんとも思ってなかったもん。今は恥ずかしくて仕方ない。意識しすぎ、なんだよなあ。
 視線を泳がせながら考えていると、口元にパンが押しつけられた。

「はい食べて〜」
「むぐっ…」

 食べるしか選択肢ないよねこれ!?もうー!
 ひとくちかじると、口のなかに甘さが広がる。悔しいけどおいしい。

「こーゆーの、他の男子ともしたことあんの?」
「え、うーん?してないと思うなあ」
「ほんと?」
「うん。そもそも男子とご飯食べるっていうこと自体あんまりないかも…」

 男子と喋ることはある。けどそれだけだなあ。相談事があるーってときも学校の休み時間か放課後にこっそりって感じだし。お昼は女子と一緒だし…。

「やえちん、こーゆーのは、意識してなくても簡単にやっちゃだめだよ〜」
「むっくんがそれを言うの?」
「オレはいーの。やえちんとしかしねーし」

 ……。
 いやいやいや。その発言を聞いちゃうと、むっくんって実はだいぶ前からわたしのことが好きだったのかなあとか!考えてしまうから!
 あーあ、これ、勉強再開しても集中できるかな。気が散りそう。むっくんのばか。


( 比例する事 / 140420 )

prev top next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -