最近、やえちんを見るたびイライラしてた。理由とか、よくわかんねーけど。でもなんかイライラする。思えば全部、あのよくわかんない封筒から始まった。

 ラブレターじゃないけど、ある意味ラブレター。意味わかんねーし。もらった本人は今にも泣きそうな雰囲気だし。
 それなのにいつも通りにしようとしてんの。腹立つんだけど。オレに何も吐かねーし、喧嘩売ってんの?

 机のなか、何度も何度も確認してんの。気付いてないとでも思ってんの?そーゆーの、中学で見てきたしだいたい想像つくんだけど。
 上履きのこと、ほんとの理由は知らねーけど、それも。体調も。嘘ついてんのわかってんだよ。


 こうしてみると、やっぱりちっちゃいなーと思う。ヤバイ気配がしたから後ついてってみたけど、正解だったわー。
 終わるまで聞いてようかと思ったけど、さすがにガマンの限界ってやつ。

「ムカつくんだよ。アイツらも、やえちんも」
「……」

 オレのいないところで好き勝手言いやがって。適当ぬかしてんじゃねーよ。

「なんで言わねーの」
「…たいしたこと、ないから」

 あー、知ってたけど。やえちんがこういう性格だって知ってたけど。さすがにこれは、許容範囲外だわ。

「ここまでされて、たいしたことないわけねーだろ」
「……」

 ずっと俯いていたやえちんが、ぎっとこっちを睨んできた。

「むっくんには関係ない」
「は〜?さんっざんオレの名前でてきたけど?」
「わたしに売られた喧嘩だよ」
「だから何?オレの話してんだから、関係なくねーだろ」

 なんでわかんねーんだよ。ほんとうぜーわ。こーゆーの、信用してないって言うんだろ。

「てゆーか、やえちんだけの問題だったとしても関係なくねーだろ。やえちんが関わってる時点で関係あんだよ。それでやえちんが泣きそうになってんなら尚更だし」
「……意味わかんない」
「あーもー、ほんっとそーゆーとこムカつくわ。やえちんにとってオレってなんなわけ?」

 なんでそこでぽかんとするんだよ。どうやったら理解してもらえんの。

「だいたい、お菓子くれるからやえちんが好きなんじゃねーし。そんなふうに思ってたわけ?」
「違う」
「じゃあなんであんなこと言うんだよ」
「そういう意味で言ったんじゃない!」
「マジでムカついたんだけど」
「だから違うって言ってる!」

 逆ギレかよ。こんな怒った顔のやえちんを見るのは初めてだ。あー、なんだろ。オレの一方的じゃない。こーゆーの、喧嘩してるって言うんだろ。
 喧嘩なのに、よくわかんないけど嬉しいって思った。意味わかんねー。

「だいたい、盗み聞き?ずいぶん悪趣味なことするんですねっ」
「そうなる原因を作ったのはやえちんじゃん」
「知らない!」
「やえちんが事情を話せば盗み聞きなんかする必要なかっただろ」
「だから関係ないって」
「あるっつってんだろ」

 あーーもーー!!何回これ言わせるわけ?いい加減わかれよ!

「お得意の迷惑かけたくないーってやつ?それが迷惑だっつってんだよ」
「……っ!!」
「迷惑かけたくないっつーと聞こえがいいけど、それってつまりオレを信じてないってことだろ」
「はあ?そんなこと言ってない!」
「言ってるようなもんじゃん。受け止められないほど器の小さいやつだと思ってんの?」

 じっとこっちを睨んでいた目が潤みはじめる。…泣くとかマジ卑怯だし。だからといって甘やかす気はねーけど。

「そんなふうに思ってない!」
「じゃあなんだよ」
「…べつに」
「答えろよ」
「だから、そんなんじゃ…ないっ、てば!」

 泣きながら怒るとかめんどくせーわ。めんどくせーのに、すっげー可愛い。だってこんなやえちん、他の誰も見たことないだろ。

「じゃあなんなのか答えろっつってんの」
「わか、んないっ…!」

 うっわ。やえちんってこんなガキっぽかったっけ。もう怒る気なくなってきたんだけど。好きになったオレの負けってやつ?あほくせー…。
 わざと大きくため息をつくと、やえちんの肩が揺れた。びくびくしすぎだし。呆れてはいるけど、もう怒ってはいねーし。

「やえちん、聞いて」
「…やだっ」
「やえ」
「……う」

 あーあー。ひっどい顔〜。拭っても拭っても涙とまんねーし。泣きやめっての〜。

「やえちんの彼氏は誰ー?」
「…むっくん」
「ん。オレ、どうでもいい子の面倒見るほど優しくないんだよねー。言ってる意味わかるー?」
「……うん」

 さっきよりも泣く勢いが弱くなった。っていうかさっきより態度が小さくなった気がするんだけど。まーいいや。ちゃんと聞いてくれるならそれでいいし〜。

「体調悪いのも、困ってるのも、全部言えよ。迷惑かけたくないって思うんだったら言ってくんない」
「……」
「返事しろ」
「は、はい」

 完全に泣き止んだやえちんが、必死にこくこくと頷いた。
 実際本当にわかってくれたか怪しいけど、いいやー。やえちんが怒ってるとこ初めて見たし。また迷惑かけたくないどうこうぬかしたら怒るけど。

 突然、視界からやえちんが消えた。ぺたんと地面に座りこんで、目をぱちぱちさせている。

「…何してんの?」
「え、えーっと…腰が抜けた…?みたい…?」
「は〜!?」

 どんだけ緊張してたんだよ。これはさすがに笑うしかない。…だから睨むなっての!

「おんぶしてあげよーか」
「やだよ!そのうち立てるようになるから!」
「え〜待つのめんどいし」

 はやくして。そう言って背中を向けると、ばかだのむかつくだの文句が聞こえた。そう言いながらも肩に手を伸ばしてるし、ばかはどっちだろうね〜。

「やえちん軽い〜」
「…ふーんっ。あ、かばん教室」

 かばんがなかったらこのままやえちん背負って帰れたのになー。さすがにこれじゃかばん持てねーし。ちぇー。

 あ。

「やえちんが自分のかばん背負えばこのままでいいじゃん」
「やだよ!」
「むー」

 いい考えだと思ったのにー。やえちんのけち。

「ふあ、ねむ……」
「寝たら教室に置いてくし」
「や、やだ起きてる」
「あー、なんか盗られたとか捨てられたとか、ないのー?」
「…数学のノート、全部破られた」

 げ〜、よりにもよって数学かよ。やえちんの苦手科目じゃん。テスト前にそれってサイテーだし。

「あ、しかえししちゃだめだよー。同じ場所までレベルをさげちゃだめ…ねむ…」
「…しねーし」
「えへ、怒りに行きそうだなって…思って」
「やえちんがダメって言うならしない〜」
「ん、ありがと」

 かわいそうだからダメっていう理由だったら聞くつもりなかったけど。やえちんって実は敵にまわすと怖いタイプだったりすんのかなー。

 しばらく無言が続く。あーもー。なんでノート貸してって言わねーの。さっき怒ったばっかなのに結局わかってないわけ?

「「ねえ」」
「…やえちんから先言って〜」
「え、あ、…ノート。貸してくださいっ…」
「いいよ〜」
「ありがとう…!で、むっくんは?」
「…おなかすいたって言いたかっただけだし」
「何それ…」

 教室について、ちょっと残念だけどやえちんをおろす。
 やえちんはかばんの中身を念入りに確認して、大丈夫だよと笑った。

「あ、あのね、むっくん。よかったら土曜日、図書館一緒に行かない?」
「行くー」
「ほんと?よかったー。一緒だったらノートすぐに返せるし、テスト勉強はかどりそうだし」
「やえちんは一日中数学でしょー?オレテスト勉強できなさそ〜」
「うぐっ」

 冗談だし。そう言ってぐしゃぐしゃと頭を撫でる。もうちょっとガマンしてね〜、今顔あげられると正直困るんだよね。相当ゆるい顔してそうだし。やえちんにはないしょ〜。


( 迷惑と甘え / 140413 )

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