…我ながら何やっちゃってるんだろう。
 冷静になって考えたらわりとひどい。というか恥ずかしい。思いだしたら埋まりたくなってきた。

 自分から、キス…するとかっ、ありえない…!!ああああ埋まりたい埋めてください。ううう。
 別にそれにたいして、夢を見ていたわけじゃない。ファーストキスはレモンの味、なんて信じるほうが珍しい。
 わたしが先にしたのだから、正しくは2回目なんだけど。されたのは初めて、ってことで。…レモン味、かあ。あああ恥ずかしいよーー!!

 …うわあ。明るくなってきたー…。結局今日も寝れないの?わたしはばかなのかなあ。
 今から寝ても絶対遅刻だよー。うう眠い。そう思うと眠くなってきた。コーヒー飲もう…。


- - -


 下駄箱を開けると封筒が入っていた。今どきこんなふうに手紙入れるひとっているんだねー。
 封筒には名前も何も書いていない。中身を確認すると、明確な悪意が入っていた。別れろって言われても、なあ。

 …はーあ。教室行きづらいなあ。どうしよう。

「やえちんじゃん。おはよ〜」
「あれ、おはよう。珍しいね」
「こっちのセリフだし。珍しく遅いじゃん」
「え、…あ、ほんとだ」

 時間を確認すると、HRまであと5分だった。余裕もってできたつもりだったんだけどなあ。

「また寝不足ー?」
「…ん」
「ばかじゃねーの」
「ごもっともですー」

 ふあ、と思わずあくびがもれた。行きたくないけど、時間は時間。下駄箱でのんびりしている余裕はないから、歩きながら話す。

「帰って寝たほうがいいんじゃねーの」
「へーき。今日からテスト期間だよ、休みたくないもん」
「ノートなら見せるし」
「いーの。ここまで来て帰りたくないし!」

 呆れた〜。そう言ってむっくんはわざとらしくため息をついた。ほんとはちょっと気持ちが揺らいだんだけどね。でも、眠いは欠席する理由にならないし。

「で、それ何〜?」
「それ?…これ?」
「うん。今どき下駄箱に手紙って時代遅れだし」
「そうだねー」

 封筒をひらひらさせていると、むっくんの眉間にしわがよった。うーん、ラブレターじゃないんだけどなあ。むしろ、そんな甘酸っぱいものならどれだけよかったか。

「でも、これ。いたずらみたいだから」
「そうなの〜?」
「名前書いてないし」
「…恥ずかしくて書けなかっただけかもしんないじゃん」
「ラブレターじゃないよ?」

 じゃあ何?という問いに、教室の扉を開けながら小さくつぶやく。

「…ある意味、ラブレターかなあ」

 後ろにいるむっくんの表情は見えない。当然、わたしの表情も見えていないはず。どういうふうに捉えるかな。気付くかな、誤解されるかな。それとも。
 教室に足を踏み入れながらさっとかばんに封筒をしまい、席についた。

 ある意味、ラブレターなんだよ。むっくん宛てのラブレター。じゃなかったら、わたしにこんな悪意を向けないよ。
 机のなかを覗くと案の定で、苦笑いするしかない。さすがに眠気が覚めるなあ。…やだ、な。

「…やえ?どしたの?」
「なんでもないよ。ちょっと眠いだけ」
「また寝不足?まーそれならいいけどさあ」

 前に向き直った友達に、心のなかでごめんねとつぶやく。わたしの問題、だもんね。誰に言ったってどうにもならないこと。怖いけど、それでも、だ。


( 歪なかたち / 140410 )

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