ゆううつなお昼休み。昨日のことを考えてため息をつく。

 あのあと本部に戻ってしばらくぼーっとして過ごしていた。友達は何も聞いてこなかった。聞かれても話せなかったし、放っておいてくれて助かった。
 片付けはきちんとやったし、失敗もなかった。帰り道、何もないところで転んだ程度。ちょっと睡眠時間が足りないけど、そんな程度。

 今日はひとことも話してないなあ。眠気覚ましのミント味を口に含む。

「やえ」
「ごめん」
「…ばーか」

 心配かけてごめんなさい。だめだ、ちゃんとしないと。幸い今はお昼休みだもん。
 立ち上がると、軽くめまいがした。眠い、なあ。

「むっくん、ちょっといいかなあ」
「…ヤダ。またにしてくんない?」
「ん、」

 わかった。その言葉は声になることなく、消えていった。いつも通り笑って、自分の席に戻る。

 どうしよう、どうしよう。


- - -



 自分の部屋で頬杖をつきつつうとうとしていると、突然着信音が鳴り響いた。急いで携帯を取りだし、ディスプレイを確認する。

「氷室、せんぱい」

 期待していた名前と違って勝手にため息がでた。…氷室先輩、ごめんなさい。

「もしもし」
『もしもし、やえちゃん。今いいかな』
「はい、大丈夫です」

 ブラックコーヒーを口に含む。これで眠気はなんとかなるはず。晩ご飯もまだだし、寝ていられない。

『最近、アツシとはどう?』
「どうって」
『うまくいってるのかなって思って』

 なんでこんなにタイミングがいいのかなあ。むっくんから何か聞いてるのかな。部活の先輩だもん、おかしくはないよね。

「気を遣わせてしまってごめんなさい。…話、聞いてもらってもいいですか」
『構わないよ、聞かせて』

 コーヒーをまたひとくち飲み、深呼吸をする。

「その、昨日。氷室先輩と別れてから、一緒に飴配ってたんです」
『うん』

 合間合間で休憩をいれつつ、ぽつぽつと昨日のことを話す。自分勝手だなあ、と思う。あれはわたしが悪い。それなのにこうして優しくしてもらって、すごく申し訳なくなる。
 わたしひとりでは答えはでない。それはわかってる。だから、迷惑をかけてしまうけど甘えるしかない。

『なるほど、ね。それで?』
「う…っ、その。拒んでしまいました。恥ずかしくて。それで、まあ、突き放されたというか、なんというか…」
『うん』
「今日、声かけてみたんですけど、そっけなくて。もう、どうしたらいいんでしょう。嫌われたかな、怖い…っ」

 大きなため息をつき、落ち着くためにコーヒーを飲む。わたしの不安に反して、氷室先輩はくすくすと笑いだした。

「な、なんで笑うんですか…!」
『いや、うん。ごめんね。アツシと似たようなことを言ってるなあと思って』
「やっぱりむっくんから何か聞いていたんですね?」
『うん。でも、それを聞いたことは内緒にしてね』
「はい」

 一体何を話したんだろう。気になるなあ。…けど、怖いなあ。似たようなことって、どの部分を指してるんだろう。

『アツシはね、拗ねてるだけだから』
「…え」
『これはオレの場合だから、アツシは違うかもしれないが』

 例えば、オレが好きな子にキスを迫ったとして。待って、とか。無理、とか。顔真っ赤にして言われたら、正直待てないと思うな。

 その言葉の意味を理解してしまって、一気に顔に熱がのぼる。ああもう、コーヒー飲もう。落ち着かなきゃ。

『突き放したのはそれが原因なんじゃないかな。今日の話は、やっぱり拗ねてるだけだと思う』
「拗ねる、ですか」
『好きな子に拒まれたわけだし、ね?例え本心でないとわかっていても、そううまく割り切れないものだよ』

 そう、なのかなあ。空っぽになったマグカップを見つめる。コーヒーは苦い。朝、コーヒーの香りが部屋を漂う。その香りが大好きで飲むようになったけど、正直頑張らないと飲めない。

『やえちゃん。アツシとキスしたい?』
「は、えっ!?ひ、氷室先輩何言って…!」
『正直に答えて。アツシには言わないから』

 …もう。恥ずかしいけど、そう真剣に言われては答えるしかない。頭のなかで言うだけでも恥ずかしいのに。

「し、たい…です」
『じゃあ、やえちゃんからすればアツシの機嫌もなおるんじゃないかな』
「ひひひ氷室先輩!?」

 さっきとはうってかわって茶化すような声色になる。真剣なのかからかってるのか、どっち!?はあ、眠気ふっとんだ…っ。

「…わたし、恥ずかしいけど嬉しくて、でもそれと同じくらい怖かったんです。なんでかは、よくわかりませんけど」
『やえちゃんはアツシが好きなんだね』
「そ、それはそうです、うん。あああわたし何言ってるのかな、もう、ごめんなさい…」

 氷室先輩の笑い声がする。ああもう、恥ずかしいな、ほんと…。

『アツシはかなり子どもっぽいよ。面倒にならないかい?』
「いえ、あー…。これ言っていいんですかね。惚気みたい…」
『構わないよ』
「氷室先輩の話を聞いて、可愛いなあって…思いました。あああもう、だめだ、落ち着きます」

 うう、しまった。コーヒー終わっちゃったんだった。あとでいれなきゃ。

『落ち着いたかい?』
「ふー…大丈夫です。明日ちゃんとお話してみます」
『そっか。アツシをよろしくね』
「が、頑張ります…っ」
『体調はどうかな。無理はしないでね』
「体調、ですか?全然平気です。ありがとうございます」

 それじゃあと言って電話を切る。なんで体調?電話しながらあくびしちゃったっけ。してないよね。うーん?

 はあ、結構長く話しちゃったみたいだ。コーヒーいれようかな。落ち着きたい。
 なんてメールを送ろう。顔見たら話したいってことを言えなくなっちゃいそうだから、心が決まった今のうちに言っておきたい。何も言わずに待って避けられても困るし、逃げられないように伝えておきたい。ちゃんと前もって伝えたら逃げないはず。だめって言われたら挑発しちゃえばいいかな。むっくん子どもっぽいもん、すぐのりそう。

"こんばんは。明日お話があります。帰りながら話したいから、部活が終わるまで待ってるね。"

 堅苦しいなあ。苦笑いしつつ、送信ボタンを押す。
 そろそろ晩ご飯できたかなあ。携帯が近くにあるとそわそわしっぱなしになりそうで、ベッドの上に放り投げた。


( 凄雨が過ぎ / 140407 )

prev top next


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -