やっと文化祭だー!ひとがたくさんいるなあ。みんな楽しそうでいいねえ。
 …見まわり楽しいなあ、ひとりで。楽しいなあ。飴配り楽しいなあ。準備は楽しかったけどこればかりは文化祭委員になってしまったことをうらむ。とはいえ、わたしは出店のほう担当だからまだ自由だけど。

「やえち〜んっ」
「お?むっくん、と氷室先輩!」
「こんにちは。仕事中かい?」
「そんな感じです…」

 他人から見たらひとりでぶらぶらかわいそう…ってなるかもしれないけど!これでも仕事中だ、そうだ。だからひとりなのは仕方ないんだ。だからこっちをじろじろ見ないでください、お願いします。

「その格好はハロウィンが近いからなのかな」
「はい!トリックオアトリートって言われたらお菓子渡せって言われてるんです」

 黒いほうの魔女をこの学校でやっていいか迷ったから、白魔女にしてみました。衣装作り大好きな友達のせいで、フリルが増えまくってるけど。もとはこんなにフリルないよね?
 もっているかごにはそこそこの量が入った飴。

「すごく似合ってる、かわいいよ」
「!?」
「ちょっと室ちん、ひとの彼女口説かないでくれる〜?」
「アツシが言わないからだろう」
「むー……」

 うっわあ!?氷室先輩に褒められただけでもどきっとしたのにむっくんの発言も恥ずかしい!あ、でもね。やっぱりこういうのはむっくんに一番褒めてもらいたいなって思うなあ。…ひどい、目逸らされた!

「それじゃあ可愛い白魔女さんからお菓子をいただこうかな。Trick or Treat?」
「わ、発音いいですね!」
「帰国子女だし〜」
「えっそうなの!?なるほど…あ、はい、お菓子です。飴ですけど!」
「ありがとう」

 またねと手を振って氷室先輩は去っていった。けど。

「むっくん、ついていかなくていいの?」
「うん」

 氷室先輩も普通にむっくん置いていったし、どういうこと?偶然ふたり一緒にいただけなのかなあ。

「おねえちゃん!とりっくおあとりーと!」
「お?」

 かわいいなあ。お菓子ちょうだいって手をだして、きらきらした目で見る子どもたち。ついつい笑顔になってしまうよね。
 目線が同じになるように座って、かごから飴を取りだす。

「はい、特別におまけして飴ふたつあげようかな」
「えーふたつだけー?」
「…しかたないなあ。みんなには内緒だよ?」

 もうひとつずつ飴をプレゼント。ふたりいるからちょっと多めの消費になっちゃったなあ。飴を全部消費できればそれでいいんだけどね。

「ありがとーおねえちゃん!またね!」
「うん、またねー」

 子どもが好きだから、こういう役はなかなか合っていると思う。ハロウィンが近いっていいなあ。

「子ども好きなの〜?」
「好きだよ!かわいいよねえ」
「そうー?」
「うん」

 むっくんも背は高いけど子どもだよ。言わないけど。

「それってさっきの室ちんみたいに、学校のやつが言ってもあげるのー?」
「言われれば誰にでもあげるよ」
「…ついてくし」
「ほんと!?」

 ひたすら校内をぐるぐるまわって飴をばらまく。呼ばれたら対応しなきゃいけないし、友達とはまわれない。お店に長居できないもん。

「ひとりで寂しかったんだよねえ」
「寂しがりや〜?」
「んー、そういうわけじゃないと思うけど」

 寂しいというよりはむなしいに近い。みんな誰かと一緒に見てまわっているのにわたしはひとりだ。…仕事だからしかたないけど!けど。
 むっくんとまわれるのが嬉しいなあ。…なんて、考えただけなのに恥ずかしくなってきた。顔熱いなあ。口にだしてないのに!

「…やえちん?」
「はい!?そうだね仕事しないとね!」
「呼んだだけだし」
「飴配り終えないとなあっ」

 数を減らすために友達や部活のひとに配ったおかげでだいぶ減った。まだ10個以上あるけどなんとかなる。余ったら全部むっくんにあげちゃえ。


( かごと飴玉 / 140325 )

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