文化祭前日は大忙し。実行委員の仕事もあるし、クラスで指示をださなきゃいけないし、あっちに行ったりこっちに行ったりばたばたしている。

「なーんでやえがいないのに料理系をやるのか」
「パンケーキなんて誰でも作れると思うけど」
「いーや違うね。絶対違う」

 わたし、この子にパンケーキ作った覚えないんだけどなあ。遠回しに作ってって言われてるのかもしれない。今度作ってあげますかー。

 むっくんはというと、最近よく女の子からお菓子をもらうらしくて、いや別になんとも思ってないけど。要するに男女ともによく喋るようになって、現在背の高さ的な意味でひっぱりだこ。準備には役立つよねーそうだよねー。

「…あたし、あんたがよくわかんない」
「ふーん」

 わたしも友達が、わたしの何がわからないのかわからないんだけど。まあいっか、と思いながら指示をだして、料理部の準備に向かおうと扉に手をかける。

「あ、やえちん〜」
「…何?」
「んー…あとでお説教」
「…説教、」

 むっくんから説教されるの、わたし。何かしたっけ、いや何もしてないような気がする…というか何もしてないよね?よくわからずに目をぱちぱちさせていると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。いつも思うけど、これを撫でると表現していいかわからない。乱暴すぎる。

「よくわかんないけど…またね」
「ん、またね〜」

 扉を閉めて、髪をぱぱっとなおして。すこし早足で部室に向かった。


- - -



 部活のほうの準備も終わって、最終チェックということで全クラスの見回りをして、ステージのセッティングもした。準備完了。
 教室にかばんを置きっぱなしにしているから取りに行かなきゃなあ。そういえばむっくんのお説教ってなんだろう。もうとっくにクラスの準備は終わっていそうだけど、残ってるのかなあ。

 考え事をしていると、ぱっと目に映るもの。

 …まあ、寝てる?のかな、机に突っ伏したまま動かないむっくんの周りに女の子が数人いるだけですけど。いるだけですけど。そこ通らないとかばんを取りにいけないっていうのがなんとも言えない。
 というかそこ、むっくんの席じゃないし。お会計するとこですし。どうでもいいけど。

 一番後ろのロッカーにいれたかばんを取り出して、持っていた筆記用具などを詰めこむ。結局説教ってなんだったんだろう。もう。

「てゆーか、さっきからうぜーし」
「!?」

 びっくりしすぎて、かばんが大きな音をたてて落ちる。どきどきしている心臓をおさえつつ振り返ると、どうやらわたしが言われたのではなく女の子たちに言っているらしかった。な、何、突然…?

「寝たかったのにぶつぶつうるせーし…うざいからさっさとどっか行ってくんない」

 え、えええ、それは言いすぎなんじゃないのかな…!案の定むっとした顔の女の子たちが、そろってわたしを睨んでからばたばたと教室をでていった。もう、何がなんだか…。
 とりあえず、わたしが良く思われていないことはわかった、けど。

「…やえちんタイミング悪いし」
「さ、さっきからここにいたけど…」
「だから、くるタイミング悪いっつってんの〜」

 なんで怒られてるんだろう。もうちょっと遅く教室行けばよかったのかな、トイレにでも寄ればよかったかな、いや全部今更だけど。ちょっと眠そうなむっくんの近くに行って、かばんを机のうえに置く。

「むっくんってなかなか辛辣だね…」
「ほんとのこと言っただけだし。ていうか、」

 むっくんと視線が合う。あ、なんかすごく嫌な予感がする。

「やえちんって、実はひどいともなんとも思ってないだろ」
「……!」
「ああいうの言ってほしかったんじゃねーの?やえちんって何も言わねーし、隠してるつもりなのかもしれねーけど妬いてるよねー。てゆーかそれぐらい言えよ、隠すだけムダだし」

 妬いてないし、とは言えなくてぐっと口をつぐむ。軽くにらむと、むっくんはすごく、楽しそうで意地の悪そうな笑みをうかべた。

「図星でしょ〜」
「…知らない、帰るっ」

 乱暴にかばんを肩にかけて教室をでる。ああもう、嫉妬してたことは認めるよ、だってとっさに否定の言葉がでなかったもの。だけど、だけど、あそこまでは思ってない、はず…。
 突然手をひっぱられて、びっくりしつつも立ち止まる。もう、何なの。

「やえちん怒ってる〜?」
「怒ってないし、離して」
「嘘つき、不機嫌じゃん」
「…だから、不機嫌じゃないって言ってるでしょ…」

 ぼそりと呟いて俯くと、すこし目頭が熱くなった。絶対泣かないから!泣くのは卑怯だもん。

「やえちんめんどくさー」
「……」
「まいう棒食べる?やえちんって飴のが好きだっけ、飴もあるよ〜」
「…いらない」

 いらないって言ってるのにごそごそ袋を取り出しはじめた。袋をよく見ると、どうやらわたしの一番好きな飴らしかった。…これ好きだって言ったっけ、偶然?この飴を持ってることが多いから、あげたことがあるのかも。ほんとにただの偶然かもしれないけど。

「口開けて〜」
「ちょ、むぐ」

 開けるまえに押しこもうとするのやめなさい!なんて思いながらも飴を口に含む。なんか、むっくんがマイペースすぎていろいろどうでもよくなってきた…。

「一緒に帰ろ〜」
「あー…はいはい、帰ろうねー…」

 わたしあそこまできついこと思ってないとか、言いすぎだって思ったのは本当だとか、言いたいことはいっぱいあったはずなのに。口のなかに広がる甘さと握られている手と、むっくんの背中を見て全部どうでもよくなった。
 なんか、今日は無駄に疲れた…。


( 焼き餅焼き / 140221 )

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