「文化祭間近で忙しいのはわかるけどさ」
「…ん」

 ひとの話聞けよ。そういって友達はわたしの手からシャーペンを奪っていった。ちょっと、忙しいの知ってるなら邪魔しないでよー!

「余裕そうに見えないし、あんたはどうしたいの」
「何の話?」

 ぽいっと口に飴をいれて、すこし舐めてからかみくだく。なんかゆっくり舐める気分じゃない。とりあえず甘いものを口にいれたいけど飴しかないし。
 つもりつもった飴の袋たち。

「ところで、先ほどからやえが絶対に視線を向けない紫原くんなんですが」
「……」

 絶対に視線を向けないって何。向けてるもん、たまには。…うそです。
 いちいち説明されなくてもどんな状況かは声を聞けばわかる。束縛とかそういうのはしたくないし、話したかったら話せばいいんじゃないんですか。

 なんて思いつつもそっちに視線をうつすわたしは結構ばかなんだろうなあ。でもあんまり楽しそうって感じじゃないなあ、だるそうっていうか。女の子、多いなー。

 長い時間見つめ続けたわけでもないのに、なぜかばっちり目があってしまった。びっくりしていると席を離れてこっちにくるし、え、別に話しててもいいのに。

「やえちん終わった〜?」
「終わったって…これ?終わってないよ」
「休憩してんの?」
「あたしがさせてます」
「ふーん」

 なんでそう嬉しそうな顔するかなあ。おじゃま虫は退散しますと言わんばかりに友達は前に向き直った。いや、シャーペン返してよ!

「何これ、飴舐めすぎでしょ〜」
「げっ…いやほら、そういう気分のときもあるって」
「なーんか怒ってる?」
「怒ってません」
「ふーん…」

 うわあ、すっごい疑われてる。むっくんって鈍そうなのに妙に鋭いところがあると思うんだよね。単純にわたしがわかりやすいだけかもしれないけど。
 ぱっと手をだされたから、ひとつ飴をのせるとむっくんは渋い顔をした。あれ、違うの?
 何が正解だったんだろうと首を傾げていると予鈴がなった。若干不機嫌そうなむっくんに、席に戻ってと促して軽くため息をつく。いつの間にか机のうえにシャーペンがのっていた。

「紫原くんって可愛いよね〜」
「ついお菓子あげたくなっちゃうっていうか」
「わかる〜」

 口のなかに飴をいれて、やっぱりかみくだく。その気持ちはすごくわかるけど、わかるけど!

「やっぱりわたしってばかだ…」
「何を今更」

 友達の言葉にたいして反論できず、机に突っ伏す。その日の授業はほとんど頭にはいらなかった。


( もやの正体 / 140221 )

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