肉まんお安くなっておりまーす、いかがですかー。

 コンビニはわりと季節先取りだよね。おでんも肉まんも8月の終わりごろからやっていたと思う。さすがにその時期にはなんの魅力も感じないどころか、暑いからいらないと思っていた。
 今は違う。秋の夕方はすこし肌寒くて、これらを見るとあーおいしそう食べたいってなるんだよね。

「肉まんー食べたいー!」
「…やえちんどしたの」
「え、今言ったとおりなんだけど」

 どしたの、なんて聞かれるとは思わなくて真顔で返事をしてしまった。肉まん食べたい。それ以上でもそれ以下でもなく肉まん食べたい。

「肉まん食べたい…」
「…食べいくー?」
「行きますっ!」

 肉まん食べたい肉まん食べたい。うーん何にしよう、いっぱい種類があるんだよね。自分で作れないこともないんだけど、なんか、コンビニで買いたいんだよね。こういうの。
 自分で好きな中身をつめて作るのだって楽しいしおいしいけど、そうじゃなくてコンビニで買って食べるのに意味がある。

「急にどしたの〜?」
「昨日コンビニ行ったらお安くなってま〜すって言ってたから、食べたくなったんだよね」
「じゃあ昨日買えばよかったじゃん」
「……」

 …あ。言われてみればそうだよね。なんで昨日買わなかったんだろ。…そんなこと考えこまずとも、答えはでてるけど。だってほら、むっくんと食べたいんだもん。だから作ることよりコンビニで買うことに意味があるの!
 一緒に帰ってコンビニに寄り道して、肉まん食べながら時間潰してゆっくり家に帰る。…いや、肉まんは手段じゃなくて目的だけど。肉まん食べたいのはほんと。

「…むっくんはどの肉まんが好き?」
「話そらしたし!」
「わたしピザまんが好きかなあ」
「むー、やえちん露骨に話そらすなっ」
「いやあだってうん、ね?」
「何が、ね?だ!」

 あっれえ、いつもと立場が違う気がする。だってなーんか気恥ずかしくて言いにくいし。言いにくいし。ていうか肉まん食べたいし。そう、わたしは肉まんが食べたいのです。むっくんはついで、…なわけないです、けど。
 まあ?あえて言うなら肉まんもむっくんも大事っていうか?…あれ、それって食べ物とひとが同じくらいってことだよね。我ながらなかなかひどい。

「昨日買い忘れたの〜?」
「えー?うー?うーん、そんな感じ?」
「ふーん、他に理由あるんだ〜」
「……」

 図星。目をそらすと青くきれいな秋の空がうつる。冬が近づけば、いくら暖房がはいっても廊下側は寒いんだろうなあ。逆に窓側は陽があたって暑いかもしれない。同じ教室で、しかもたいした広さではないと思うのにこんなにも温度差がある。

「やえちん〜っ」
「へ、あ、なに?」
「やっぱぼーっとしてたし」

 第一印象ってアテにならないなあ。だって最初はこんなに可愛いひとだとは思わなかったもん。あんなに背高くていつもだるそうにしてるひと、怖いって思っても普通だと思う。誰も中身がかなり子どもっぽい、なんて思うまい。
 不機嫌そうなむっくんの頭をすこし撫でると嬉しそうな顔をした。

「言っとくけど、そんなんじゃ誤魔化されないし〜」
「え、何の話?」
「やえちん、オレと一緒に帰りたいんでしょ」

 ぴたり。撫でていた手がとまって、若干震えだした。さんざん自分の中でごまかそうとしたところに気付かされたあげく、一番むっくんに気付かれたくないとこに気付かれた。もうやだ。穴があったら入りたい!

「で、でも!!肉まん食べたいのはほんとだもんっ」
「照れすぎだし〜、それはわかってるから落ち着いて」
「ん…。に、」
「肉まん食べたいのはわかってるって言ってるだろ」
「ご、ごめんなさい」
「なんであやまんの」

 言いたいことを言って俯く。だんだんきつくなるむっくんの言葉にびくびくしながら、すこしだけ顔をあげる。

「…なに笑ってんの」
「だっていちいち反応が可愛いし」
「わたしはそういうむっくんが憎たらしい!」
「ありがと〜」
「褒めてない!」

 むかつくから髪をぐしゃぐしゃにしてやった。なんで無駄なことに気付くかなあ!わたしがわかりやすいだけ?でもでも、ああこいつこんなに肉まん食べたいって思ってるんだな〜ぐらいで流してほしかったよ!

「やえちん今日部活っしょー。帰りに行こっか〜」
「に、肉まん食べたいだけだからねっ」
「はいはい一緒に帰ろうね〜」
「もー!!」

 違う!と何度言ってもむっくんは相変わらず楽しそうにしているだけだった。うー、なんでそんな余裕そうなのかなあ、ずるい!


( 食欲の秋に / 140110 )

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