席替えとかめんどくせーけど、窓際の一番隅だったからまあいいやー。そんなふうにぼけーっとしながら窓の外を眺めていたら、前の席のひとに声をかけられた。
「えっと、初めまして!…同じクラスになって1ヶ月経ってるのに初めましてっておかしいかもしれないけど!」
何このひと。若干びくついてんのまるわかりだし、気分悪いなー。適当に返事をしたら、前の席のひとが小さいポーチを取り出した。
「これ!あげます!嫌いだったらごめんなさい!」
「んー、ありがとー」
何かよくわかんないけど、飴は嫌いじゃないからもらう。適当にひとつ開けて口に含む。アララ、この飴結構おいしい。レモン味だ〜。
飴を転がしていると、前の席のひとからさっきのうざい雰囲気が消えた気がした。オレ、何かしたっけ?女が何考えてるかとかわかんないし、興味もないけど。
「あっ名前!わたし橘やえって言います、よろしくね」
「よろしくー」
めんどくさくなってきて、そのまま机につっぷしたらため息が聞こえた。けど、それに含まれる雰囲気には最初みたいなうざさはなかった。
それからこのひとはよく話しかけてくるようになった。
「昨日コンビニに行ったらお菓子の新商品がでてたんだよー、もう買った?」
「んー、アレはちょっと微妙だったわー」
「えーそうなんだ…ちょっと高いし買うのやめておこうかな」
手探りって感じが全然隠しきれてねーし、距離のとりかた測ってるのまるわかりだし、表情ころころ変わるからわかりやすいし。話す内容はだいたい新商品のお菓子のこととか、料理部のこととか、とにかくお菓子関係の話をすることが多かった。
オレの部活の話になって、バスケが好きか聞かれたときはヒネリつぶしそうになったけどー。すっげー泣きそうな顔してたから、泣かれるとめんどくせーし許すことにした。
「やえちんはさー、そんなに料理するの好きなの?」
「当然!なかなか楽しいよー、レシピ通りにやるのも、自分でレシピ作っちゃうのも」
「ふーん…」
やえちんはいっつもにこにこしてるけど、この時の笑顔だけはちょっとむかついたなー。
- - -
「んー…」
目を開けると授業もHRも終わったのか、だいぶひとがいなくなっていた。やえちんもいないし。起こしてくれたっていいのに、やえちんのけちー。
身体を起こすと、机のはしに飴がふたつ置いてあるのが目に入った。あ、これ、やえちんに初めてもらった飴と一緒だ。明日売ってるとこ聞こうかな。この味、結構気に入ってんだよねー。
「あー、テスト期間だから部活ないじゃん」
テスト勉強とかめんどくさー。必死に頑張らなくてもそこそこできるけど。飴をひとつ口に含むと口いっぱいに甘酸っぱさが広がる。
こうやってやえちんと初めて喋ったときのことを思い出すのは、たぶん夢のせいだ。
( 黄昏色の夢 )