部活が終わって、職員室に鍵を返す。体育館の鍵はまだ返されていないし、バスケ部はまだやってるのかな。18時をすこしすぎたところだし当然だよね。…な、なんでそんなこと気にしちゃうんだろう、もう。
 ずっと話していない…っていうかわたしが避けてるんだけど。ちょっと話したいなあと思っちゃうっていうか。まあ、今このタイミングで偶然会ってしまったとしても正直おどおどしてしまう自信しかないし、偶然なんてことがあったら困るというか…、

「あれ、やえちんまだいたのー?」
「!?」

 げっ、と言いそうになったのをあわてて飲みこむ。いつもならまだ部活をやってる時間じゃない!?なんで今日ははやく終わってるの…!
 すっごいタイミングいいというか悪いというか…。あまりにも空気を読みすぎた登場でびっくり、っていう表現だとやさしすぎる気がする。どうしよう、正直まだ心の準備が全くできていないから勘弁してほしかった!話したいとは思ったけどやっぱり無理!

 鍵を返してきたむっくんにそれじゃあねとつぶやき、背を向けようとして片手を掴まれる。びっくりして見上げると、いつになく真剣そうな顔だったから言葉がでなかった。もう、やだなあ。どうしたらいいんだろう。

「ちょっと待って」
「…なに?」
「んー、いろいろ言いたいことがあるんだよね〜。歩きながら話すー」

 あれ、いつも通りに戻った…?はあ、びっくりした。言いたいことってなんだろう。
 むっくんの少し後ろを俯きながら歩く。これ以上追い打ちをかけられると心が折れそう。でも、きついことが言いたいんだったらとっくに言ってるよね。わざわざ歩きながら、なんてそんなことしないはず。

「あ、ゴメ〜ン、ちょっとここで待っててー」
「うん」

 むっくんが歩いていった先にはバスケ部のひとたちらしきジャージ姿の男の子の集団。ちょっと会話しただけでこっちに引き返してきたけど、なーんで部活のひとと帰ってくれないかなあ。
 言いたいことって今じゃなきゃだめなの?明日じゃ、明後日じゃ、それ以降じゃだめなの?…わたしが逃げたいだけだ、はあ。
 だってだって、まだ心の準備ができてないんだもん。じゃあそれはいつできるの?って、そんなのいくら待ってもきっとできないんだろうな。

「やえちん、またため息ついてるし」
「へ、あれ、いつの間に戻ってきてたの?」
「…大丈夫〜?」

 こっちに向かってたのは知っていたけど、ずいぶんぼんやりしていたみたい。むっくんが歩きだすのに合わせてわたしも歩を進める。こうやって一緒に歩くのっていつぶりだっけ。落ち着かなくて数歩後ろを歩きたくなったけど頑張ってこらえる。

「どこ行くの?」
「あっれ〜、やえちん帰らねーの?」
「え、帰るけど」
「そういうこと〜」

 そういうこと、って、どういうこと。寮の前をあっさり通り過ぎ、コンビニによりたいのかなと思ったらそのコンビニの前も通り過ぎた。おどおどしているとやえちんの家ってこっち?と聞かれてやっと察した。家まで送ってくれるってこと、なんだ。
 あのねえ、むっくん。そういうことをするってことは、期待されちゃっても怒れないんだからね。うっとうしいとか言う権利与えないんだからね、ばーか。

「やえちんさ〜、最近避けてるでしょ」
「そ、そんなこと」

 ばちっと視線があって反射的にうつむく。事実避けていたのだからないですとは言えない。嘘ついたってばればれなこともわかっている。でも、そうだねと言う勇気もなくて言葉が続かない。

「オレ、やえちんのこと嫌い。だって思ってること言ってくれねーし、最近余計に何考えてるかわかんねーし、オレには話してくんないのに室ちんには話してるみたいだし?見ててイライラするしお節介だし、なんかもうひたすらウザイし」

 一気にいろいろ言われて気付いたら立ち止まっていた。や、うん、それってべつに、さっき鍵返したときに言えばよかったのに。なんでわざわざ、家まで送りながら言うかな。嫌がらせか何かなのかな。
 すこしいらいらしてきて脳内で言われた言葉を繰り返していたら、ふとあることに気付く。

「…もしかしてむっくん、心配してた?」
「は、なんでそうなるわけ?」

 だって、それって、まるで自分には相談してくれないのに氷室先輩には相談してるのが気に食わないって言っているようなものだよ。

「そんなんじゃねーし!やえちんなんか嫌い、だし」
「…はあ、知ってるよそんなの。嫌いだったらわたしのことなんか放っといてよ」

 頭で考えるより先に言葉がでる。だって、だってね、矛盾してるよ!嫌いだったら気にかけないでほしい、優しくしないでほしい。声をかけないでほしい。放っといてほしい。声をかけられたらそれだけで嬉しくなっちゃうからやめてほしい。どうせ、なんにも知らないんでしょ、ほんとばか!

「っ、うそ、ごめん、やえちん好き」

 え?と言う暇もなく、ぐいっと思いっきり腕をひっぱられて、気付いたら視界は真っ黒に染まっていた。


( きみ恋ふる / 131214 )

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