あの日は結局1日中むっくんのことを考えてしまってなかなか寝付けなかった。思い出すだけでも恥ずかしくなるけど、仕方ないと思う!自覚したばかりだもん。
報われない可能性のが高いんだろうなあって思うから辛くもなるけど、それでもやっぱり好きなんだなあってところに辿りつく。
氷室先輩はむっくんを素直じゃないって言ってた。言われてみれば思い当たる節はある。偏頭痛のときとか、お土産のときとか。…ちょっと種類が違う、かなあ。
でも、素直じゃないっていうのなら、熱のときのあの発言もそういうことってとっていいのかな。心からの拒絶じゃないって、ちょっとポジティブすぎるかな。
心の準備ができていないから今は聞けないけど、できたら絶対に聞くからね。
「…なーんか、ふっきれたって顔してんねー」
「そう?」
「うん、いい顔してんじゃん?」
「先輩に話を聞いてもらったからかなあ」
がたん、友達が音をたてて勢い良く立ち上がる。え、なんで?どうしたの?
「あたしを差し置いて先輩に相談!?まじありえない!やえ嫌い!」
「え!?あーごめん、昼休みに屋上行こう?そこで話すから、ね?」
「焼きそばパン1個」
友達の威圧感がすさまじくて、反射的にこくこくと頷く。とりあえずは落ち着いてくれた。まだぶつぶつ言ってるけど。…心配、してくれてたんだよね。
ちらりとむっくんのほうを見ると、数人の女の子が囲んでいた。あー、なるほどね、これが嫉妬ってやつ。彼女でもなんでもないただのクラスメイトなわたしが嫉妬って何様のつもりなんだろう。でも好きだから仕方ないよね、…なーんて。表にださないから許してね。
- - -
約束通り焼きそばパンを買ってきて、お友達に献上。ご飯を食べつつわたしはひたすら氷室先輩とのことを話して、友達はひたすらうんうん頷くだけ。好きだってことを話すのはやっぱりすこし恥ずかしい。
けど、前にむっくんが好きか聞かれたことがあるから、ばれてるんだろうなあ。多少恥ずかしくはあったけど言葉につまるとか、そういうのはなかった。
「いっまさら気付くとか、あんたって思った以上に鈍いんだね」
「うう、否定はしません…そういえば、なんでわかったの?」
「そりゃま、可愛かったもん」
ごほごほ、ばか、むせた!突然何を言いだすの、この子は!
わたしがわかりやすいっていうのはさんざん言われてきたことだから今更否定はしない。でも自分で気付いてなかった部分も思いっきりでてたのかなあ。友達だから気付いた、ってことにしておいてほしい、恥ずかしいから。
「ていうかさあ、付き合ってなかったのが不思議なくらい」
「え、ちょ、」
「諦めた子だって多いみたいよー、紫原くんのこと」
何それ、初めて聞いたんだけど!というか諦めたって何。わたしとむっくんはただのお友達だったんだから諦めるも何もないと思うんだけど。
「話しやすくて可愛くて料理もできて、あたしからみたらそうでもないけど頼れる子って、そりゃ諦めるっつーの」
「さらっとひどいこと言ったよね」
「全部褒めてるっつーの」
料理はできるけどそれ以外は自分じゃよくわからないからなんとも言えない。でもわたしより可愛くて話しやすい子なんてうちのクラスにたくさんいるよね。わたしが仲良くしてるってだけで諦められちゃうものなのかなあ。よくわかんない。
「で、最近話してないっしょ?あんたら別れたか喧嘩したのかなって、それで女子たちがよく話しかけるようになったってわけ」
「…へー」
なーんか気分悪いなあ、そういうの!だいたい付き合ってないもん、ばか。
「良くも悪くもあんたが変えちゃったってことだよねー。女子にとっちゃ紫原くんってなかなか話しかけにくいタイプっしょ」
「あ、それわかる」
わたしも最初はだいぶ勇気ふりしぼったもんなあ。背が高いから威圧感みたいなのがすごくて、席が近くならなかったらきっと話しかけてなかったと思う。ということはつまり他の子も一緒?わたしと話しているとこをみて怖くないんだってことを知ったってことかな。嬉しいことだけど、嬉しくないような…複雑。
ギイ、屋上のドアが開く音と同時に男の子の声が聞こえる。…あ、あー!!
「あ、あれって氷室先輩と、」
「ちょっ、隠れ、て!!」
ドアとは反対側の場所にまわりこむ。足音は聞こえているだろうけど、それがわたしたちだってことには気付いてほしくない。だって、だってね。
顔がすごく熱い。そのまま壁にもたれかかって、ずるずると地面に座りこむ。さっきは嫉妬しちゃってそれどころではなかったのかな。だってちょっと見ただけでこれって、もう末期なんじゃないの、わたし。
「なーんで隠れるかなあ…」
「は、恥ずかしいもん…」
「本当に好きなんだねえ、紫原くんのこと」
にやにやしている友達を軽く睨んでから、膝を抱えて頭を埋めつつそうだよとつぶやいた。
( 恋わずらい / 131213 )