わたしの後ろの席のひとはとんでもなく背が高い。平均的な身長のひとが小さく見えるぐらい。
 入学して1ヶ月ぐらいかなあ。席替えして今の窓側、後ろからふたつめの位置にきた。窓側っていいよね、外見れるもん。後ろにひとがきた瞬間席替えしたくなった。
 これだけ背の高さが違うと、本人にその気がなくても威圧感すごいんだよね。いつも机に突っ伏して寝てるから話しかけたことがなかった。だから実質あのときが初対面。びくびくしてた気がするなあ。すこし前なのに懐かしい。

 後ろを向いて、軽く深呼吸。

「紫原くん、起きろー!お昼休みだよ!」
「んー……」

 救いといえば、紫原くん以外、まわりは喋ったことあるひとだった。本気で安心したなあ。
 ああそうだ。せっかく前後なんだしって思って話しかけたのが最初だっけ。飴をキッカケにするわたしはどうかと思うけど、今思えば大正解だ。
 …ひとを見た目で判断しちゃいけないね、うん。

「あれ、まだ起きない?起きてー起きてーっ」
「…うるせーし」

 しまった、紫原くんは寝起きの機嫌が超悪いんだった。ちょっと前を懐かしんでいる場合じゃない。

「起こせって言ったの紫原くんだよ!起きろー!」
「…んー?ああ、やえちん、おはよー」
「はあ、おはよー」

 無事に起こせて一安心。これが前は無事じゃすまなかったもんなあ。誰が頼まれて起こしたら、頭掴まれて睨まれると思う?さすがに泣きそうになった。

「遅くまで部活やってたの?…ってそうだ、テスト期間だから部活はないんだった」
「練習もめんどくせーけど、テスト勉強もめんどくせー」

 めんどくさいよねえ、うんうん。無事起こせたしお昼ごはん食べようっと。
 そういえば、紫原くんはバスケが好きじゃないんだっけ。好きかどうか聞いたらすっごい怒られたもんなあ。…いや、怒られたって言うと優しく聞こえるかもしれない。怒るってことは嫌いなのかなあ。ならなんでやるんだろう。

「やえちん飴ちょーだい」
「やだ」
「ケチ〜」
「たまには紫原くんがお菓子ちょうだい!」

 いっつもわたしがあげる側だもん。紫原くんのせいで飴の消費量すごいんだからね。

「まいう棒あげる〜」
「ありがとー。じゃあ交換」
「ん」

 紫原くんっていっつもお菓子もってるよね。わたしもひとのこと言えないけど。

「飴ぐらい買えばいいのに」
「だってやえちんが持ってる飴、いっつもうまいしー」
「基本甘いものばっかり選んでるからいろいろ心配だけどね…」

 今日の飴はクリームブリュレ味。甘さと、カラメルのちょっと苦いのがいい感じのバランス。

「でもさあ」
「んー?」
「紫原くんは今日も菓子パン、そのうえお菓子いっぱい食べて!将来糖尿病になっても知らないよ?」
「オレは運動してるしー」
「…そうでした」

 バスケ部の練習はすごいって聞いた。それにしたって過剰な気がするけど、本人がいいならいいんだと思う。将来苦労しそうだけど。
 まあ、現在進行形で苦労しているわたしが言えたことじゃないけどね。体重計って怖いよねえ。

 完食、ごちそうさまでした。お昼ごはん食べたあとって眠いなあ。窓側だから余計に眠い。

「やえちんおやすみ〜」
「おやす…え、また寝るの!?」
「ねみーし」

 紫原くんは飴を口に含んで机に突っ伏した。寝るか飴なめるかどっちかにしようね。喉に詰まっても知らないよ!
 …じゃなくて。寝ることに対してつっこまなきゃいけないんだよね。でもわたし自身、次の時間にうとうとしそうで怖い。

「起こしたわたしが寝たら目も当てられないしね…」

 どうせ先生も寝ている紫原くんを放置するだろうし。席替え前だったかな。寝ている紫原くんを先生直々に起こしたら大変なことになってたっけ。寝起き不機嫌だもんなあ。あれは怖い、わかる。
 眠いけど、平凡な成績のわたしは寝ている場合じゃない。よし、眠気覚ましにミント味の飴でも舐めよう。


( 砂糖味の君 )

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